人類の出産と子育て
700万年前までさかのぼって
さて今回は出産と子育ての歴史についてです。
どのぐらいさかのぼりましょうか?
明治時代?江戸時代?
いえいえ、一気に700万年前までさかのぼってみます。
歴史というより人類学のお話になりそうです。
人類はチンパンジーから分かれて進化をとげてきました。
最大の特徴は直立二足歩行です。
そこからヒトとしての、他の動物とは全く違う進化が始まりました。
当時のサルはジャングルの樹上で生活していました。
樹上は外敵も少なく、栄養価の高い果実なども豊富にありました。
それなのになぜ、外敵も多く、食料も乏しい地上に降りてきて、二足歩行を始めたのか?
はるか昔の話ですから、諸説いろいろあります。
代表的なのがサバンナ説。
フランスの人類学者 イヴ・コバンが1982年に提唱したものです。
気候変動によってアフリカの東側からジャングルが乾燥したサバンナになり地上に降りざるをえなかった。
そこで二足歩行になりヒトへと進化するという説。
二足歩行するようになって足の指の形が変わっていったと考えられています。
サルの足の親指は他の指と対向しているため、物をつかむことができ、容易に木に登れます。ヒトの手と同じです。
ヒトの足の指は、直立二足歩行するようになってからその機能が失われたと考えられています。
しかしこの説は、その後の発見から否定的な意見が多いようです。
また逆に、この足の指の機能の変化を退化ととらえる説もあります。
突然変異によって指の対向性を失ってしまったために、木に登れなくなり、しかたなく地上で生活するはめになってしまったと考える説です。
アクア説とういものもあります。
クジラやイルカのような海生哺乳類のように水中で数百万年生活していたという説です。
ヒトがほぼ無毛であることや、水中での姿勢から直立するようになったなどの説明ができるとのことです。
そして、その後環境が変わり、再び陸上に戻ってきたという説です。
その他、京都大学霊長類研究所の提唱する運搬起源説とういものもあります。
貴重な資源を一度に多く運ぶため、直立して両手を使う方が有利であるとの説です。
なにはともあれ我々の御先祖様はアフリカの大地を二本足で歩く生活を始めたのです。
そうすると何が起きるのか?
「頭部が直立した胴体の直上に位置することにより、その体躯に比して巨大な頭部を支えることが可能になった。
ヒトの体重に比しての頭部の重量は、全動物中でも最も大きい。
結果として、ヒトは体重に比して巨大な脳容積を得ることができ、全動物中最も高い知能を得た。」
牙もなく、するどい爪もなく、足も遅く、木にも登れない、弱々しい我々の御先祖様は知能で生存していく戦略をとりました。
結果はご存じのように大成功です。
いまだかつて、ここまで成功した生物は地球上には存在しなかったぐらいの大成功です。
やはり「猿の惑星」になることはないのです。
500万年前ごろからヒト族の脳は大きさと機能分化の両面で急速に発達し始めたと考えられています。
しかし脳が大きくなることは、いいことばかりとは限りません。頭が大きくなりすぎると、分娩時に骨盤を通れなくなるのです。
これは困ります。子孫を増やせない進化は進化とはいえません。
そこで我々の御先祖様は、骨盤を通れる大きさの間に早めに産んでしまうことにしたのです。
他の動物との対比から一年は早く産んでいる計算になるそうです。
これがスイスの動物学者ポルトマンの提唱した「生理的早産」という考え方です。
ちなみにアフリカゾウの妊娠期間は22か月です。
いったい何回妊婦健診にいけばいいんでしょう?ちょっと大変そうです。
「共同繁殖」
さあ、御先祖様は無事子供を産むことができました。
しかし、また新たな問題に直面します。
一年も早産したおかげで、歩けない、自分で食べることもできない子供の世話をする必要が出てきたのです。
その問題の解決のために御先祖様が次にとった戦略は「共同繁殖」でした。
両親、血縁者、非血縁者みんなで子供を育てることにしたのです。
そうすることによって子供の生存率が上がり、ヒトはその数を増やし、繁栄していったのです。
われわれ現代人は、ホモ・サピエンス種に属します。
ホモ・サピエンスは20万年前ごろアフリカに現れました。
そして20万年間共同繁殖を続けてきました。
日本に於いてもつい最近までそうでした(20万年から見れば、50年や100年などつい最近のことです)。
おじいちゃん、おばあちゃん、近所のおっちゃん、おばちゃんと供に子供たちは成長していきました。
今はどうでしょう?
たった一人ですべてをかかえて、子育てに忙殺されているママも多く見受けられます。
20万年間続いてきた最適の子育てシステムが成り立たなくなってきた現代の子育て。
いろいろな問題がでてくるのも仕方がないのかもしれません。
現代版共同繁殖をみんなで考えていく必要がありそうですね。
レディースクリニック院長 下村 陽祐
大阪堺筋本町「しもむら本町レディースクリニック」院長。
女性はライフサイクルに伴いさまざまな問題が発生します。今までその多くはあたりまえのこと、がまんすることと考えられてきました。しかし適切な治療によって痛み、不安やがまんから解放されます。クリニックでは、快適な日常を、そして笑顔を取り戻すお手伝いをしています。