第5回:フィンランド 教育大国でのびのび育児
北欧の新生児は「肺を鍛える」

ママココをご覧のみなさん、こんにちは!
フィンランド在住のライター/ジャーナリストの靴家(クツケ)さちこと申します。
フィンランド人の夫と、日本で生まれた9歳の長男とフィンランドで生まれた4歳の次男と共に、首都ヘルシンキから約30キロメートル北にあるベッドタウン、トゥースラという町に住んでいます。
長男の出産は日本でしたが、フィンランドで授かった次男はフィンランドで初めての出産。
無痛分娩や、福祉国家ぞろいの北欧の中でも最大の大きさを誇る「アイティウスパッカウス(国から支給される新生児への必需品セット)」など噂には聞いており、特に日本で体験できなかった無痛分娩を心待ちにしていたのですが……
タイミングを逃して正常分娩してしまいました(笑)。

このようにして2008年の2月下旬に生まれた次男ですが、早速アイティウスパッカウスに入っていたベビー服を着せて、ガラガラであやし、必需品セットが入っていた45センチ×72センチもある箱の底にマットとシーツを敷けば、小型ベビーベッドに早変わり。
一般のフィンランド人はこのように箱入り娘/息子で人生をスタートするようですが、次男は箱がお気に召さなかったようなので添い寝に切り替えました。

そして、生後2週間ぐらいで実践したのが「外でのお昼寝」。
フィンランドでは産後3~4日で退院して、そのまま普通に外出も含めた日常生活を再開するママ達が多数派なのですが、何しろ2月下旬で外は-10℃前後。
日本から移住した時7か月だった長男には凍死しないかと恐る恐るでしたが、フィンランドでは「肺を鍛えるため」に赤ちゃんにたくさん重ね着をさせてベビーカー(というか乳母車)でお散歩の後、そのまま外でお昼寝をさせる習慣があるのです。
終業式は春パーティー

フィンランドでは共働きの家庭では、通常1歳前後から保育園(パイヴァコティ)に子どもを預けます。
日本の幼稚園と似たようなものとしては、3歳までたっぷり育児休暇を取っている、あるいは年下の兄弟が生まれて二人目の育児休暇に突入しているママと子ども達向けに自治体や教会が主催する「パイヴァケルホ(日中クラブ)」や「レイッキコウル(遊び学校)」という、週3~4日間、午前中か午後の3時間預けられる施設があります。
長男は2歳から保育園に通わせましたが、フィンランド語がまだ十分に話せないのに入れてしまったためか、小学校入学に至るまでは保育園と地元の保健センターと親で三つ巴になって、フィンランド語の強化をしなくてはなりませんでした。
その反省点を活かし、次男は2歳になるまでは外国人のママと子どもが一緒に通う児童館に母子で通い、2歳になってからは、特定の公園に常駐している公園おばさん(シッターさん)に週に1回、2時間だけ預けてみたり(ちなみに、これらのサービスは自治体持ちで無料)、別の日の週に1回、2時間だけのパイヴァケルホを試し、3歳の秋からレイッキコウルに週3回通わせました。
それにしても、北国だなぁと感じるのは、秋から新学期が始まるのはいいとして、終業式が必ず春のパーティー(ケヴァットユフラ)で締めくくられることです。
長男の保育園では、「海賊」をテーマに歌やおどりを見せてもらったり、外でバーベキューをしてソーセージを食べたり、次男のレイッキコウルでは「サーカス」をテーマに子ども達がクラスごとに発表をしたあと、ピエロが風船細工や手品を見せに来てくれました。
「世界一の教育」を受けさせてみて

さて、次男とは4歳半も年が離れている長男はもう、小学3年生なのですが、移住してきた2004年にはフィンランドがPISA(OECD生徒の学習到達度調査)のテストで世界一にランクインしていたこともあって、私はこの「世界一の教育」とはどういうものなのか、息子と共に体験する日をとても楽しみにしておりました。
小学校入学前には、給食も授業料も全額無料のエシコウル(プリスクール)があり、長男も通いましたが、数字は20まで、アルファベットも大文字だけの習得を目指すなど、学習内容はのんびりとしており、朝8時から12時まで学校と同じような授業や休み時間の長さで半日を過ごし、学校での生活リズムに慣らすのが主な目的というものでした。
さて、フィンランドの教育といえば、国で統一した指導要綱があるわけでもなく、指導内容は各自治体や学校と先生の裁量に大きく任されているところが一番の特色です。
私たちは、長男の引っ越しに伴う転校により、それぞれの学校や先生の違いをまざまざと見せつけられました。
「競争が無い」ことで知られるフィンランドの教育ですが、ケラヴァでも1年生の1学期から1学期に1~2回、算数と国語のテストはあり、保護者には「あくまで生徒たちの理解度を計るため」のものだという説明がありました。
それでも1、2年生の間は特にテスト勉強をしなくても、誰でも満点近くがとれるようなテストばかりだったのですが、トゥースラの学校では、1か月に1回、国語、算数、自然環境と英語の4教科でそれぞれテストがあり、きちんと「テスト範囲とテスト勉強の仕方」が学校ベースのイントラネットで各家庭に連絡されるほどの徹底ぶり。
「この学校はテストが大好きな学校だよ~」と文句を言いながらも、早速家に遊びに来る友達も何人かできて、長男もトゥースラでの学校生活を満喫しています。
大阪弁っぽい?フィンランド人

最後に、大阪の「ママココ」さんだということで、フィンランドと大阪を結ぶものに触れますと、それは「言葉」だと思います。
フィンランドにはF1レーサーでライッコネン、スキージャンプの選手でアホネン、歴代大統領にはケッコネンという、まるで大阪弁のような「ネン」で終わる名前の苗字の人が多いです。
もっとダイレクトに「アホ」という苗字もありますし、パーヤネンという、「アホちゃいまんねん」と付け足したくなるような名前の人もいます。それだけに、フィンランド在住の日本人の中でも大阪をはじめとする関西出身の方たちは、フィンランド生活の第一日からありとあらゆるものにツッコミを入れては楽しんでおられる様子。
私自身は埼玉県出身なのですが、移り住んできた当初は、長男のベビーカーを押しながら、巷で聞こえるフィンランド語の「センタキヤ(そのために)」を「洗濯機屋」、「トッタカイ(もちろん)!」を「取ったかい?」などというように、一人で空耳アワーしながら歩いていたことがあります。 その長男が、プリスクール時代から2年通った音楽スクールの終業式で「アホ」いう苗字の生徒が名前を呼ばれて立ち上がったのを見て瞬時に吹き出したのを見た時、ああ、私の日本語教育がしっかり浸透している、と一人胸を熱くしたものです(アホさん、ごめんなさい)。
フィンランド人の気質は、ちょっとシャイだということもあって、ニールセン北村朋子さんがおっしゃるデンマークの人達ほど情が厚い感じではありませんが、ベビーカーの段差の昇降や、子ども連れの人には重たいドアを支えてくれたり、レストランでは子どもメニューがすぐに出てくるなど、さりげない優しさはあちこちで見受けられます。デンマーク同様、男女共働きの国(共働き率70%)ですので、日常生活で子どもに負担をかけてしまいがちな分、子どもに優しく、子育てがしやすい国だと言えます。
静かでのんびりしていて、子連れでの観光もしやすい国ですから、フィンランドにも是非是非お立ち寄りください。
私どもも、毎年恒例の日本へ里帰りに「東海道新幹線に乗りたい!」という息子たち(=トミカ・プラレール命)からの熱いリクエストを受け、近々大阪デビューするかもしれません。

靴家 さちこ(本名:ステンルース幸子)
フィンランド在住のライター/ジャーナリスト。1974年生まれ。5~7歳までをタイのバンコクで暮らし、高校時代にアメリカ・ノースダコタ州へ留学。青山学院大学文学部英米文学科を卒業後、米国系企業、フィンランド系企業を経て、結婚と出産を機に2004年より夫の母国フィンランドへ移住。2008年より二児の母。
「marimekko® HAPPY 60th ANNIVERSARY!」、「Love!北欧」、「オルタナ」などの雑誌やムックの他、「PUNTA」、「WEBRONZA」などのWEBサイトにも多数寄稿。共著に『ニッポンの評判』、『お手本の国のウソ』(新潮社)、『住んでみてわかった本当のフィンランド』(グラフ社)などがある。