産休、育休をとって職場復帰する人が増えました。それに伴い、職場復帰した社員(多くは女性)の活用、キャリア形成が課題になっています。今回は、復帰後の社員が陥りやすい「マミートラック」についてまとめます。

1.マミートラック

1.マミートラックとは

企業内でのキャリアアップは、年次や能力に合わせて階段を上がるように昇進していきます。
それに対して、育児をしながら働く女性の中には「時短だから」「ママだから」「両立は大変でしょう」という理由で、業務のサポート的な役割になり、陸上のトラックをグルグルと周るように、昇進や昇格から外れてしまうことがあります。「マミートラック」とは、このような状況のことをさします。

両立支援制度を充実させてきた大企業を中心に、そのようなマミートラックに乗っている女性へ、「ぶら下がり」「お荷物」いった言葉も使われ、復帰後社員を活かしきれていない現状がみえます。

制度をつくり、「継続することだけ」「権利だけ」を中心に考えてしまい、その先の将来を真剣に考えなかったことは否めないかもしれません。

2.マミートラックの経験者は1/4以上!

NHKの2016年11月4日~17日インターネットアンケートによると、回答のあった、出産後に復職した1300人のうち、「マミートラックを経験した」という人が、およそ28%いることが分かりました。4人に1人以上がマミートラックの経験者なのです。
これは大きな損失と認めざるえません。

仮に、女性社員が50名。30歳でマミートラックになり、「昇進や昇格から外れてしまう」状態の女性が会社に今で5名。
今後、毎年3名が増えていくと、このマミートラック世代は離職しないので、増えていく一方。
10年後には、35名の35~45くらいの、キャリアアップしない女性たちでつっかえてしまうのです。

引用:NHK おはよう日本(URL:http://www.nhk.or.jp/ohayou/digest/2016/11/1120.html)

2. マミートラックの現状

1. メイン業務からサポート業務、軽作業へ

「マミートラック」は、女性の意識が低いからなのでしょうか?
妊娠前は営業職をしていた人、第一線、メイン業務と呼ばれる仕事をしていた人なども、復帰後、「育児をしながらでは難しいだろう」と上司の過剰な配慮により、負荷の軽いサポート業務に近い仕事をすることが多いようです。

現在、育休からの復帰後の配置は、元職復帰が基本となっているため、同じ職場に戻ることが多いですが、それでも定型業務やバックヤードの仕事になったり、営業職などでは、重要度の低い顧客をアサインされるなど、配慮がなされます。あ
特に総合職では、様々な部署を異動したり、出向や転勤を経て、徐々に責任範囲やポジションを上げていくことが一般的です。上司は悪気はなく、よかれと思って配慮をするのですが、過剰な配慮が続けば、長期的な経験の差が昇進などに影響を及ぼします。

2. 短時間勤務の長期利用でさらに抜け出しにくくなる

「短時間勤務」は、両立支援制度でよく利用されている制度の一つです。企業の両立支援制度が整ったことにより、共働きだったとしても、男性は働き方の見直しを行わず、女性のみが働き方を変え、この「短時間勤務制度」を利用します。

特に、長時間労働の夫、単身赴任の夫など、家事育児に分担協力してほしくても、実現できず、家事育児を女性が一手に担っている状態、いわゆる「ワンオペ育児(※)」と言われる環境では、短時間勤務の利用が長期にわたります。

しかし、以下のような問題点があると指摘されていて、キャリアに大きな影響を与えるといわれています。
・勤務時間が減っても仕事量が変わらない
・帰ると決めた時間に帰れない
・責任のある仕事、やりがいのある仕事をさせてもらえない
・仕事内容・量に対して評価が低い
・昇進・昇格が遅れる
・キャリアアップの道が見えなくなる
・職場の上司、同僚の理解が得にくい
(参考:さあ、育休後からはじめよう ~働くママへの応援歌~)

また、長時間労働職場では、「定時に戻す=残業」という考え方がしみついているため、「残業ができない、しない」という予防線のために短時間勤務を継続し続ける状況も生み出しています。

※ワンオペ育児とは:「ワンオペ」とは、飲食店などの店舗をひとりでまわしている状態、つまり、「ワンオペレーション」のこと。そこから派生して、ひとりで育児を行うことを「ワンオペ育児」といいます。

3. 葛藤を抱える本人たち

マミートラックとよばれる、就業継続しやすいけれども、昇進・昇格が見込みにくい仕事。
「育児中は大変だから・・・」と配慮という特別扱いを受けることで、本人は「やりがい」を奪われるように感じます。「誰かの役に立ちたい、必要とされたい」のに期待されていないように感じるのです。

そして、「子供を預けてまで働く仕事かどうか」とやりがいの無い仕事と、預けている子供との間で、罪悪感を持つようになります。
「もっとがんばりたい」と思ったとしても、仕事が続けられなくなったらどうしよう、残業ができないので中途半端になる、迷惑をかけているのにわがままは言えないと、多少不満に思っても、口をつぐみ、マミートラックを回り続けるのです。

日本の企業は長時間会社にいることが良い、がんばっていると評価される傾向がいまだに強く、育児などによりそれができない状況では、時間生産性なら負けないのに、結局がんばってもがんばらなくても評価は同じという「あきらめ」を生み出しやすくもなります。

4.マミートラックに乗せない、乗らないために

1マミートラックに乗せないために(会社側にできること)

配慮をへらす

仕事量は時間に応じて変えますが、仕事内容は変えないということが基本です。「あなたのためを思って・・・」はあなたのためにはなりません。
ただし、まったく配慮無しでは、今度は就業継続が難しくなります。「どうしたら良いんだ」という声が聞こえてきそうですが、そのためには、部下の一人ひとりの状況を正しく把握することです。

育児中の社員の状況は様々です。他の部下にも共通することですが、コミュニケーションを積極的に取り、「今の現状はどうか」、「困っていることは無いか」、「どのように活躍したいか」など日ごろからやり取りすることで、何か困った時に相談しやすい関係になるのではないでしょうか。

②復帰直後が大切

出産し復帰してきた女性は、いったん仕事から離れ、また新たな気持ちで仕事に向かう意欲に満ちています。長期間休業したことに対する、会社や職場の人に対する感謝の気持ちや貢献意欲が高まっています。
そして、限られた時間の中で仕事も育児もこなさなければならない出産後の女性は、時間に対する意識が高まっています。

この時期に、仕事をセーブしすぎると、いざ、子育てがひと段落した時に、踏み出すことがとても怖くなります。復帰直後、期待を示し、機会を与え、乗りきるよう、サポートしていくことで、復帰後の女性は自信がつき、より一層生産性高く結果が出せる中核社員として活躍するのではないでしょうか。

2. マミートラックに乗らないために・乗っていると感じるあなたに(女性にできること)

育児期間というのは、その最中は長いように感じるものですが、意外と短いものです。マミートラックに乗り続けていた先の10年、20年、30年後を想像してみてください。
折れてしまうまで無理をする必要はありませんが、同じところをぐるぐる回っていたら成長はありません。みなさんが社長なら、成長していない社員を雇い続けたいと思うでしょうか?

その為には、自分で日々能力を高めるスキルを身につけたり、少し難しい仕事にも思い切ってチャレンジしてみてください。もし、「やりがいがない」「もっとやりたい」と感じるなら、上司に本気を伝えてみてください。
まずは、気持ちを伝えること。時間制約がある上で、「どうやったら?」ということは、一人で悩むより、上司に相談してみてはいかがでしょうか。

そして、今、不本意ながらもマミートラックに乗っているかもしれないと感じる方もいるでしょう。
もし、そう感じていたとしても、まずは今の仕事を責任感を持って、しっかりとやることです。その上で、もっと効率よく出来るところは無いか、もっと価値を上げられることは無いか考えて、提案してみてはいかがでしょうか。丁寧に積み上げた一歩一歩の先に、次の扉が待っています。

キャリアが見えず悩むこともあるかもしれませんが、向き合って最善の選択を重ねた先にこそ、納得のいくより良い未来が待っているのではないでしょうか。

7.「マミートラックでもいいか」と思っているあなたへ

可愛い子供を見ていると、「子育て優先にしたい」「自分でないと・・今しかない・・・」と思っても不思議ではありません。
また、子育てがうまくいかないと、「やっぱり働いているから悪影響が出るの?」思うことや、「子供が小さいうちは、やっぱりお母さんが」といった周囲の意見に、仕事のブレーキを踏んでしまうことがあるかもしれません。

最初のうちは、育児と仕事との両立のリズムに慣れるのに精いっぱいで、仕事の負担を軽くしてもらう配慮はありがたいと感じるかもしれません。しかし、マミートラックが有り難いと思うのは半年くらいではないでしょうか。

慣れてくると、やりがいはなくなる一方で、その期間が長ければ長いほど、そこから踏み出すのが怖くなります。
短時間勤務を本当に続ける必要があるのか、育児を理由に「これくらいで」と思っていないかどうか、今一度自分に問い直してみてはいかがでしょうか?

おわりに

この記事をまとめている私もマミートラック経験者です。
課長と男性の同僚が飲みに行ったであろう次の日に、「昨日も言ったけど、次の昇格はお前だから用意しておけよ」という言葉を聞くと、「声をかけられていない私は、対象外なんだ」と思ったり、なんとなく経験値にならなさそうな仕事ばかり割り当てられている気がしたり・・・

育児と仕事の両立で時間に余裕が無いことよりも、「認められていないんじゃないか」「この先、お荷物になるんじゃないか」と思うことの方が私にとってはしんどいことでした。
今になって思うのは、いっぱいいっぱいだったあのころ、他人と自分を比較して、「やっぱり私が育児をしながら働いているかだ…残業ができないからだ…」と自分で勝手に頭の中で結び付けて考えてしまいすぎていたように思います。足らない事ばかりに目を向けていたのかもしれません。

もし、今、昔の自分にアドバイスをするとしたら、
「子供がいることは自分の選んだ道、昔のように仕事ができないことは変えられないかもしれない。
変えられないことに目を向けていないで、その上で、どんな風に仕事が出来たら良いのか、どんな風になりたいのか、そのために自分は何が出来るのかしかないんだよ。
上司に悩んでいることも含めて相談してみたら?冷静に話せなかったとしても、気持ちをぶつけてみたら?」
ということでしょうか。
今、真っただ中にいる方たちが、少しでも前を向いて力強く進んでいけるよう、応援しています。

参考:
「育休世代」のジレンマ (中野円佳 著/光文社新書)
さあ、育休後からはじめよう~働くママへの応援歌~(山口理恵・新田香織 著/労働調査会)