女性アスリートと産婦人科
不妊症の定義がかわりました
今年、2016年はオリンピックイヤーです。
ブラジル・リオデジャネイロで行われる今年のオリンピック。
日本の代表選手、団体も続々と決まってきています。
世界の中で、日本のトップアスリートがどこまで戦えるのか?
とても楽しみです。
選ばれた選手の中には、おなじみの選手もたくさんおられます。
レスリング53kg 吉田沙保里選手、マラソン 福士加代子選手、卓球 福原愛選手など、長い間最前線で活躍している選手が選ばれています。
新しい選手で注目は、女子100mバタフライ 池江璃花子選手。15歳の高校生です。
自宅の風呂場で水中出産により誕生した「水の申し子」だそうです。
なんと1歳6か月のときに鉄棒の逆上がりができたとか。
生後9か月からゴルフを始め、3歳でハーフ50を切ったというタイガーウッズレベルの伝説がすでに備わっています。
しぶいところでは近代五種競技の朝長なつ美選手。
警視庁第4機動隊の巡査長をされています。
近代五種競技とは、フェンシング、水泳、馬術、射撃、ランニングからなる競技だそうです。
朝長巡査長に追われたら、犯人は絶対に逃げ切れません。
あと、これはママココのコラムですのでママ選手の紹介を。
クレー射撃の「トラップ」代表の中山由紀枝選手。上下左右さまざまに飛びだす標的を狙い撃つ種目です。
さらに女子7人制ラグビー代表の兼松由香選手。ママさんラガーです。
ママがんばれっ!という視点で見てみるのも面白いかもしれませんね。
残念なこともあります。
女子サッカーが出場を逃しました。
ワールドカップで優勝したのは2011年です。
それがアジアですら勝ち抜けない状況になるとは・・・ 澤選手の穴は大きかったようです。
女子サッカーの場合、ワールドカップとならぶ大会だけに残念です。
4年後の東京での活躍に期待です。
女性選手を中心に紹介してきた長めの前フリからようやく本題です。
今回のテーマは「女性アスリートと産婦人科」です。
生理痛や月経前症候群、生理周期による心身の変化が、女性アスリートのコンディションや、パフォーマンスに悪影響を与えます。
生理痛がひどいときに最高のパフォーマンスが発揮できるとは思えませんよね。
そのような女性特有の問題に対して、婦人科受診を促す取り組みが始まっています。
例えば、国立スポーツ科学センター内にあるメディカルセンターに婦人科が設置されています。
生理痛や無月経への対応、生理周期の調整などを通じて女性アスリートのコンディション維持に取り組んでいます。
また同センターには女性アスリート専用電話相談窓口が設けられています。そんなサポート体制がアスリートを支えています。
最近では月経対策の重要性やその対策法についての理解がひろがり、生理周期の調整を行う選手が増えてきています。
ベストなコンディションで試合に臨めれば、結果はよりよいものになることが期待されます。
このように、産婦人科医は試合に向けてのコンディション作りにもかかわっています。
また産婦人科医はアスリートの日常的な生活にもかかわっています。
女性アスリートには、Low energy availability、無月経、骨粗鬆症の問題があります。
これらは女性アスリートの三主徴といわれています。
Energy availability とはエネルギー摂取量と消費量の差のことです。
競技特性からくる低体重志向と強度の高いトレーニングが続くとLow EAの状態になります。
Low EAの状態が続くと脳からのホルモン分泌がうまくいかなくなり、無月経になります。
無月経が続くと、女性ホルモンが少ない状態が続き、骨粗鬆症へとすすんでいきます。
そうなると疲労骨折がおきやすくなります。
これは持久系競技に多く、次に瞬発系、審美系が続きます。
疲労骨折を経験した選手の頻度は、陸上の中長距離走で51.0%、体操、新体操で35.7%といわれています。
それとともに中長距離走、体操、新体操の選手は無月経の割合も20%以上と突出して高くなります。
また、BMI(body mass index )18.5 未満のアスリートには約40%に疲労骨折の経験があるといわれています。
このことからも、やせ形のアスリートの多くが低骨密度であることがうかがえます。
今回の女子マラソン代表の田中智美選手のデータがあります。身長154cm 体重39kg。
これからBMIを算出すると16.4となります。少し心配になるような数字です。
疲労骨折は高校1年生から2年生のあいだに多く起こります。
その世代には、身長の増加に見合った体重増加が必要です。
そのためには、エネルギー摂取を増加させるための栄養指導と、トレーニングの負荷内容を検討する必要が出てきます。
才能ある選手が、怪我により競技をあきらめなければならないような事態を防ぐためにも、産婦人科医ができることが存在するのです。
今回のオリンピック、女性アスリートの活躍の裏で産婦人科医が微力ながら貢献していることを、ちょっとだけ思い出しながら見てくださいね。
それでは、8月に開幕するオリンピックを楽しみに待ちましょう!
レディースクリニック院長 下村 陽祐
大阪堺筋本町「しもむら本町レディースクリニック」院長。
女性はライフサイクルに伴いさまざまな問題が発生します。今までその多くはあたりまえのこと、がまんすることと考えられてきました。しかし適切な治療によって痛み、不安やがまんから解放されます。クリニックでは、快適な日常を、そして笑顔を取り戻すお手伝いをしています。