豆の記 ~煮ル、食ス、満ツル~ その2 この子どこの子? 風の子の子
ふと夢みることがあります。
どれだけ精緻に編みこまれた言語の体系をもってしても、掌から指の間からこぼれ落ちるなにものか――言葉になるまえの「コトバ」を通してでしか物語りえない「カタリ」。
……誰も知らない――でもそれは誰しもにあるはずで、心のずっと深いところにたゆたう。
形のない兆しに満ちた大きなクラゲのような「原初の卵」。
……かつて世界(宇宙)は卵そのものであったとして、やがて微かな音とともに亀裂が奔り、
私たちの知る言葉が、「はじめの物語」が生まれる。
……もしかしたらコトバとカタリの雫を落として。
例えば「はじめの物語」としての数多くの神話は、同時に「はじまりに関する物語」でもあります。
個人レベルでいえば、赤ちゃんのことばがそういえるでしょう。
初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、
神の霊が水の面を動いていた。神は言われた。
「光あれ。」
こうして光があった。
『旧約聖書 創世記』
数多くの神話は「世界(宇宙)のはじまり」から語り起こされます。
では、わたしたちは……いつ、どこから、どのように?
「ねえねえ、じいちゃん。じいちゃんのじいちゃんは、なにしていたの?」
「じいちゃんが毎日していること。こうして岩に座って、風の神様にお願いをする。天に地に、ありがとうを届けてくださいと」
「じゃあ、じいちゃんのじいちゃんのじいちゃんは? じいちゃんのじいちゃんのじいちゃんのじいちゃんは?」
これから述べるいろいろな話は、みな遠い遠い昔から伝えられてきた話だ。
(中略)
白いトウモロコシの下には、白ワシの羽を置いた。
黄色いトウモロコシの下には、黄ワシの羽が置かれた。
それから聖なる人々は、見ている昆虫人たちに、遠くに離れて立つように言った。
風が入ってくるようにするためだった。
『アメリカインディアンの神話 ナバホの創世物語』
北米インディアン(ナバホ族)の神話によれば、人間は「風」によって生命を吹き込まれたといいます。私たちの指先にあるもの――指紋は、太古「最初の人」に吹いた風の足跡であると。
荒ぶる神等、又石根木立、草の片葉もこととひて、
昼は五月蝿(さばえ)なすさやぎ、夜は火のかがやく国(荒ぶる神々が跋扈し、
岩も草も木も言葉を騒々しく発する。昼はわいわい。夜もがやがやと火が燃える国)。
『常陸国風土記』
山川草木悉皆成仏(生きとし生けるあらゆることどもは、須らく仏性の種を有する)。
『法華経』
さいごに一首。
人生とはなにか。
それは暗い夜の蛍の光である。冬に野牛が吐く息である。
それは草原をかすめ、日没に姿を消す小さな影である。
『ブラックフット族酋長 クロウフット 辞世』
コヨーテのマッイイ―が撒き散らした星影のもとで、語り紡がれてきた物語の群れ群れは、恐らく日本人には親しみやすいものであると思います。機会があれば是非。
本日のお料理は、北米インディアン・サコタッシュ族のチャウダーに由来する「アメリカン・ネイティブ・チャウダー」です。
~アメリカン・ネイティブ・チャウダーの作り方~
材料
白いんげん 90g
じゃがいも 小1個
バター 大さじ½
玉葱 1カップ
にんにく 1片
塩 小さじ1強
トウモロコシ(生or缶や冷凍) 1½カップ
豆乳or牛乳 2½カップ
- ①豆を一晩もどし戻し煮る
豆全体の体積の「3~4倍くらいの水」に一晩つけ、やわらかくなるまで煮る。 (圧力鍋の場合は加圧5分) - ②下準備
じゃがいもは角切りにして茹で水気を切る。 玉葱、にんにくはみじん切りにする。 - ③炒める
鍋にバターを溶かし玉葱、にんにく、塩を入れ10分炒める。トウモロコシを加え、更に10分炒めて、①の豆を入れる。 - ④仕上げる
③にじゃがいもと豆乳を加え温める。 - ⑤盛る。食す。
今回はここまでです。
それでは、みなさま、ごきげんよう。
栄養士 杉井 もえ
栄養士免許取得後、料理撮影アシスタントに。
その後、珈琲会社で輸入食材販売を担当。
あるひと夏レタス畑にて働く。仲居になる。
病院栄養士退職後、豆とスパイスに目覚める。
現在、自宅で豆を煮る日々。