お産のタイミング・そばにいて欲しい人は?
男性の方へ
「お産の時、夫とか子供とか一緒でも大丈夫ですか?」と聞かれることがある。
助産院では、「あなたが、お産の時にこの人にそばにいて欲しいと思うなら大丈夫です。」と答えています。
それを聞いて「やっぱりいた方がいい?」と尻込みしている男性も、もちろんいる。
そんな方へは、お産の時の様子をお話ししたり、時には色々な本を読んでもらうこともある。
その中の1つが、長谷川義史さんの「うん この赤ちゃん」
この本は、絵本作家の長谷川さんが体験された、三度の立ち会い出産で、その時「見たこと・聞いたこと・感じたこと」そのままを絵本にされています。
出産を体験した女性が書くお産の本はたくさんありますが、産科医以外の男性が書いたお産の本はそんなに無いのではないでしょうか。
例えば、陣痛中リラックスを促すために「呼吸はゆっくり吐いてね…」ということがあるのですが、立ち会い中の夫さんも産婦さんの頭元で「ふーっ」と大きく息をはかれる。
長谷川さんは、この時の僕の息が「おにぎりくさかった」と言われた「あぁ、二日酔いじゃなくてよかった」と思ったなど…
男性から見た立ち会い出産が、とてもわかりやすくユーモアたっぷりに書かれていました。
もしかしたら【立ち会い出産の心得】みたいな堅苦しい本より、リアルに感じてもらえる本だと思います。
でも、私個人の意見としては 実は、夫・子供さんの立ち会い出産については、本当に、どっちでも よいと思っています。
というか、お産がどのような経過をたどるのか、その時どんな気持ちになるのかは、実際にお産が始まってみないとわかりません。
産まれる前にあまりたくさん決めすぎると、理性が立ちすぎて「こうしなきゃ!」と身体が硬くなったり、一つでも、自分のイメージしたプランから離れると、落ち込んだり、その先どうしたら良いのかわからなくなることもあります。
なので、 「立ち会い出産を経験してもらって、父親にも出産の感動を!そこから育児参加を促そう」などと崇高なイメージと作戦で計画を立てると、後で色々もめる原因にもなる上、お産の時には、頭の中から理性が流れて行って本能的に湧いてきた色々な気持ちやイメージの方を大切にして欲しいし、そのような感情に蓋をしないで感じて欲しいと思います。
もしかしたら、その感情が 「みんな部屋から出ていって一人にしてほしいー」「誰も私に触らないでほしい」「(陣痛中のトイレで)ここで産みたいー!」だったとしても、蓋をしないで、表出するにしてもしないままでも、十分感じて欲しいと思っています。
なので、立ち会い出産を目標にして夫婦で頑張った方達でも、このような時には席を外してもらったり、かと思えば、次の瞬間「そばにいて!どこにもいかないで!」と別のお部屋に行かれた夫を、大急ぎで迎えに行ったことも。
だから 「今まで一緒に、僕も腰のマッサージの練習してきたのに…」とショックを受けるよりは 「本当ですね。お産中って気持ちも揺らぐんですね」 と笑顔で産婦さんを見守っていただきたいと思います。
だってあなたの奥さんは 何も包み隠さず、あなたに全てを表現して、今、最高に気持ち良い状況なのですから。
女性の気持ち
立ち会い出産に関わらず、お産中には、頭であれこれ考えて不安になったり、本を読んだり話に聞いた理想を掲げて、それにがんじがらめになった頭をゆっくりとかして、頭ではなく身体で感じて動いて欲しいと思っています。
以前、こんな産婦さんがおられました。その方が三人目の赤ちゃんをご出産中の事。
「もういやー」「お母さん!助けてー」(その時、実母がいたわけではない)「いたいー」と大きな声を出しながらお産された人がおられました。
まだまだ未熟な私は、その時、猛烈に反省しました。
もっと彼女が、お産を楽に乗り越えられる様に、他に何か他にしてあげられる事はなかったか…と。
上の子供さんのお産は二回。別の施設ではありましたが「とても気持ちよかった」そんな感想を聞いていただけに、今回は私の力不足で彼女に辛い思いをさせてしまった。と布団に入っても悶々としてしまいました。
でも翌日、彼女の部屋を訪問すると、すっきりくっきり、キラキラした表情で彼女は私に言いました。
「大人になって、あんなに大声で泣いて、甘えて、弱音を吐いて、抱きしめてもらってまた泣いて…そんな事ってなかなかないでしょ。私にとってはそれができるのはお産の時だけ。ほんまに気持ちよかったです。最高のデトックス。これだからお産はやめられない!」
実は、彼女のお母様は教職に就かれていて、彼女自身、親に甘えて困らせる事はなく、必死でいい子を演じていたとの事。
そんな彼女が、私の腰に捕まり「おかあさん!助けて!」と大きな声で泣くことが出来て、想いも気持ちも全て出しきった後の表情だったのかと思うとうれしくなりました。
赤ちゃんのタイミング
もちろん、赤ちゃんが お産の方法を選んできたり 周りでついてくれるメンバーを選んで、一番いい時間に生まれてきてくれたり鳥肌が立つ様なタイミングでのお産は、数え切れない程ある。
帝王切開を選んだ赤ちゃん、たまたまその先生が、それまでのパパの頑張りを認めてくれて、 「旦那さんが側にいてくれる方が安心するでしょう」 と、急遽、手術室で立ち会い出産されたお父さん。
助産院で産みたいというお母さんの希望を振り切って、大きな病院でのお産を選んだ赤ちゃん。
後で「なるほど!」と思う事もあれば、「なんで!なんで!」って悩む事もあるでしょう。
きっと今はわからないだけで 理由はあるんだろうなぁと思う。
ちなみに、うちの3人目 「まだ、陣痛もこれからっていう感じですね。みんな夕食まだなんでしょう。ゆっくり外でご飯でも食べてきたら?」と助産師さんに言われ、お父さんと、姉、弟が車に乗ってエンジンをかけた瞬間 ミサイルみたいに飛び出してきた!車は出発 もちろん立ち会い出産どころか、誰も間に合わず…
何年か経って 「なんで誰もいない時に生まれてきたん?」って聞いてみた。
「だって、お母さんが大好きもん。二人っきりが良かってん」 と言われました。
これから赤ちゃんを産む人へ
あれこれ心配することはあると思いますが、赤ちゃんと自分の身体に任せていけばいい。
きっとタイミングも全て決まっていて一番いい時に生まれてきてくれる。
心配なのは、あれこれこねくり回して、赤ちゃんのタイミングを邪魔してしまう事。
だから、 「立ち会い出産で感動させて、この人の父性を引き出してやる!」 なんて、そんな計画必要なし。
「仕事が忙しそうだから、お産の時に側に居なくても良いよ(本当は居て欲しいけど)」 なんて、遠慮も無用。
いて欲しい時、いて欲しい人に「側にいて」って言えばいいし 「静かにして」「ちょっと離れていて欲しい」相手が誰であれ、たとえ我が子であっても、不快な時は、きっぱり言えばいい。
あなたのお産が、 何にも邪魔されず、 大きな腕の中。深い安心感に包まれて、赤ちゃんとお母さんのペースで進みますように。
岸本助産院 助産師 岸本玲子
自身が産前産後に体調を崩した経験から、笑顔で子育てするには、まず母親になる人の健康な身体作りだと実感【元気な身体で楽しく子育て】をモットーに、安産はもちろん、妊娠前~子育て世代の【ココロとからだの元気】をサポートしています。