第10回:インド 「子供は神様」と愛情注ぐ子育て
インドの工業都市、ノイダからナマステ~
ママココ大阪をご覧の皆様、初めまして。インド在住のフリーランサー、さいとうかずみと申します。現在、二人の女の子の子育てをしながら、ライターの仕事をしています。
私が住んでいるところは、ウッタルプラデッシュ州のノイダ市という都市です。
聞いたことのない名前だと思いますが、インドの首都ニューデリーの中心部からは車で約1時間、ヤムナ川という大きな川を横断するとノイダになります。
ゆったりと流れるこの大河は、母なるガンジス川に流れつくというのですから、見るたびに思わず手を合わせたくなりますよ。
ノイダへは、夫の仕事の都合で、今年3月に移りました。
インドに来て4か所目、子連れでは2度目の引っ越しです。
ノイダは工業都市で、主に自動車関連の工場やIT関連の企業が進出しており、多数の高層マンションの建築が急ピッチで進められています。
一方で、いまだに牛たちが草をはんでいる野原があちこちにあり、そのフンを並べて乾燥させている光景(乾くと立派な燃料になります!)も見られ、新旧が入り混じった、いかにもインドらしい場所です。
不便なことも多々ありますが、のんびりとしていて、子育てには向いているかも知れませんね。
外国で子供を持つこと
インド生活は7年目になりますが、子供を授かる前後で、ものの見方や考え方が随分と変わりましたね。
以前は、カメラ片手にリキシャ(自転車タクシー)やオートリキシャ(三輪バイクタクシー)で、どこへでも気軽に出かけていましたが、妊娠を機に行動やその範囲が制限されるようになりました。
危険なことは避け、衛生面にも随分と気をつかいますから、嗅覚に任せて立ち止まり、屋台でカレーを食べるなんて、長いことしていませんね。
大阪のお好み焼やたこ焼きとは大違い、インドの場合、現地の人ですら非衛生的だから食べないようにと言うくらいですから。
しかし、子供を持って、インドの知らなかった部分が見えてきたことも事実です。
例えば、インドの人たちは、家族の絆が非常に強く、家族で過ごす時間を大切にしています。
一般的に、家族>親戚>所属するコミュニティー>友人や同僚といった順に重きを置く傾向にあるため、私たち外国人は、よほどの親しい関係にならない限り、深い付き合いはしてもらえません。
しかし、子供を通じて、自然と社会との繋がりができ、以前より踏み込んだ関係を築けるようになった気がします。
意外にもラグジュアリーなお産施設
私の場合、最初の子供をインドで出産しました。
インドのお産事情は、その家庭の懐具合に比例していると言えます。
ある程度の収入のある人は大きな病院で、収入の少ない人は小さな産院などで出産しているようです。
インドは、お産に限らず、医療費は全額自己負担になります。社会保障制度が整っていないため、保険料を支払う余裕のある人は、個人で医療保障付きの生命保険に加入しています。
私は、陣痛から出産後の回復まで滞在できるLDR(Labor=陣痛、Delivery=出産、Recovery=回復、の頭文字)の部屋を事前予約し、産後は「スイートルーム」と呼ばれるホテルの一室のような部屋に入院しましたが、出産費用は日本の4分の1程度でした。
ただ、入院日数は日本の半分でしたし、物価の違いも考えると、それなりの金額なのでしょうね。
医療水準の高いインド、信用できる医師との出会い
子育てする上で、信頼できる病院や医師を持つことはとても大切ですが、インドの場合、小児科に限らず、医師個人が携帯電話の番号を気軽に教えてくれるため、緊急時に助かります。同じく幼い子供を持つインド人の母親に聞けば、必ず何人かの医師の連絡先を登録しています。
私も幾度となく医師に電話で指示を仰いだことがありますが、頼れる人の少ない外国人としては、話を聞いてもらえるだけで安心します。
インドの医療技術ですが、インドは貧富の格差が非常に大きいため、大都市の大病院から地方の医師までをならして言うことは難しいですが、都市部の総合病院の医師らは、外国で学び、経験を積んできており、かなり高水準とされています。医療費が安くあがるため、海外から治療目的でインドへ来る人も多いのですよ。
また、子供の予防接種についても、しっかりとしたプログラムがあります。
私も、お産をした病院で予防接種の記録用紙をもらったので、小児科にかかる際に持参しています。
おかげで、引っ越しで州が変わっても、もれなく接種を継続できています。
しかし、インドの場合、国を挙げて取り組んでいるポリオワクチンの接種以外はすべて有料ですので、悲しいことですが、予防接種をきちんと受けられない子供も多いのです。
教育の低年齢化が進むインド。普通の子も皆「お受験」の準備
さて、インドの教育についてですが、教育の低年齢化がますます進んでいます。
毎年夏になると、翌年4月から通う私立学校の保育部への受験申込が始まります。
対象年齢(3歳以上)の子供を持つ親たちは、早い時期から、希望校の情報収集に忙しい日々を送ります。長女が通っていたプレスクール(日本の幼稚園)では、親への説明会を開催し、頻繁に受験情報をメールで送信してくれました。
親たちが躍起になる理由は、各学校の席数には限りがあるため、人気校は競争率が非常に高いからなのです。
長女の場合、受験した学校のポリシーが「早い者順」であり、書類を出した時には既に定員に達していたようで、「書類選考落ち」となってしまいました。
願書配布日の早朝から学校に並んで書類を手に入れたのですが、翌日に提出したのが遅すぎたのです。ショックでした。
しかし、インドはものすごい「コネ社会」。不合格を聞きつけた主人の同僚が、知り合いに根回しをして、あっという間に受験資格が得られました。
当日、子供たちは数人ずつのグループで簡単なテストを受け、両親には面接が行われましたが、無事に合格できました。ちなみにインドの一般家庭の子供たちは、私立学校に行くのがごく普通のことで、授業料のかからない、いわゆる公立の学校(政府の学校)には、非常に貧しい家庭の子供たちだけが通っています。
つまり、インドで子供に教育を受けさせるためには、その幅はさまざまですが、お金がかかるのです。
インドで子育てする醍醐味
インド人は、子供が大好きです。知り合いのインド人は「子供には、神が宿る」といつも言っていますが、確かに子供たちはとても可愛がられて大きくなります。
椅子から転落した子供を前に「この椅子が悪い!」と椅子をたたいて見せるような場面によく遭遇しますが、日本なら見かけそうな、子供を躾ける意味で叱るような姿を一度も見たことがありません。
子供ですら、より小さな子供をあやそうとするくらいですから、いかに周りの大人たちが子供に愛情をかけているかわかりますね。
私の場合、夫は日本人ですし、インドが大好きで移り住んだわけではなく、この先のことも決まっていません。
ついでに、インドの生活は毎日何かのトラブルがあり、私や夫の気持ちが安定しないため、そんな親を見た子供たちがちゃんと育ってくれるのか不安になります。
そんな心配をよそに、長女は、日本語しか理解できないのに、英語よりヒンディー語が飛び交う学校に元気に通い、次女もインド人に抱っこされ、愛想をふりまいて、喜んでいます。子供ってすごいなぁ。
これからも、子供たちに元気をもらいながら、肌身で感じたインドのよさを子育てに取り入れつつ、楽しく過ごしていきたいものです。
さいとうかずみ
2007年よりインド在住のフリーライター。
インドでの妊娠、出産を経験後、現在、二人の子どもの子育てをしながら、執筆活動、写真撮影、リサーチやコーディネートも請け負う。
マガジンアルク、経済関連雑誌、ジャパニーズインベスター、ソトコト、日経ウーマン(雑誌、オンライン)、月刊クーヨン、朝日コム(オンライン)、新聞などさまざまな媒体に執筆。インドでの生活をブログ「天竺だより」にて発信中。