第16回:ギリシャ 青く澄んだ海と温かい人々に囲まれて楽しく育児
アテネに移住~現地での出産を選択するまで
ママココ読者の皆さん、こんにちは。
ギリシャ・アテネ在住のフリーランスライター有馬めぐむです。
ギリシャは世界遺産の古代遺跡が全国に点在し、紺碧のエーゲ海やイオニア海に浮かぶ島々には美しいビーチリゾートが広がる観光立国です。
2004年、アテネ五輪のマラソン中継で映し出される街並みをテレビで見ていた頃、後に自分がその地に住むなんて全く想像もしていませんでした。
ところがその数年後、国際会議の仕事をきっかけにアテネに数ヶ月滞在し、ギリシャ人の夫と知り合いました。
2007年、結婚を機に移住し、今年の2月に男児を出産。
赤ちゃんとの新生活に大わらわの新米ママです。
結婚前はギリシャ全土の遺跡や島々を訪ね、陽気な人々のもてなしを楽しみました。
ギリシャ人は外国人に対してもオープンマインドで親切な人が多いと思います。
しかし実際、当地に住み始め、特に現地企業で働いていた時期は、国民性の違いにストレスを感じていました。
ギリシャ危機が世界中の耳目を集め始めた2010年には、会社勤めに加え、記事執筆やラジオ出演などが集中し、過労で入院したことも。
ギリシャでの初入院でしたが、医療レベル的に問題なくても、日本の病院の看護師さんの丁寧な応対に慣れている身には、より疲れるような入院生活でした(笑)。
なので「妊娠したら出産は日本で」と考えることも多かったです。
しかし昨年、婦人科系疾患の手術を受けた際、そのクリニックの医師がとても信頼できる先生だったこと、また術後のお世話をしてくれた看護師さんたちも本当に甲斐甲斐しくお世話してくれたことが印象に残りました。
その後、しばらくして妊娠が発覚したのですが、その産婦人科医の先生にかかり、こちらで出産することに決めました。
アラフォーの初産だったので不安もありましたが、妊娠中、担当医の先生や助産師さんが携帯電話の番号を教えてくれて、「何かあったら24時間いつでも電話して」と言ってくれたのも心強かったです。
助産師さんは私よりずっと若い20代の女性でしたが、頼り甲斐がありました。
妊娠後期から産後2ヶ月まで定期的に自宅を訪ねてくれて、オムツの替え方、授乳の仕方、お風呂の入れ方、爪切り、ベビーマッサージなど、様々なことを教えてもらいました。
その訪問に関して料金を支払う必要もありませんでした。
お腹が目立ってくると、街で見知らぬ年配の女性などに「何ヶ月なの?男の子、女の子?」と笑顔で尋ねられることがよくありました。
地下鉄で席を譲ってもらったり、スーパーでのレジの列でも「お先にどうぞ」と言ってもらったり。
外国人の妊婦にも温かく接してくれるギリシャ人の懐の深さを感じました。
赤ちゃんのアレルギーリスクが低下する地中海式の食事
ギリシャ料理の特徴といえば、最近、日本でも様々な効能が注目を浴びているオリーブオイルをたっぷり使うこと。
トマトやレモンをはじめ、野菜や果物、豆類、新鮮な魚介類もよく食します。
このような地中海式の食事は健康食として世界的に注目され始めており、ギリシャ、スペイン、イタリア、モロッコが共同申請をした地中海式ダイエット(痩身法の意ではなく、食習慣)は2010年、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
この地中海式の食生活は、妊娠しやすい身体をつくる上で、非常に理想的なのだそう。
また産まれてくる赤ちゃんのアレルギーリスクにも作用するそうです。
ギリシャのクレタ大学による調査では、母親が地中海式ダイエットの食生活をしていた場合、そうではない母親の子供に比べてアレルギーリスクが低下、特に呼吸器系のアレルギーリスクは80%も低くなるという調査結果が出ています。
クリニックの栄養士さんのアドバイスもあり、私も妊娠中はできるだけ地中海式ダイエットに沿った食生活を心がけました。
ギリシャは美味しいヨーグルトやチーズが多種ありますが、その栄養士さんによれば、山羊乳や羊乳のヨーグルトやチーズを食べると赤ちゃんに呼吸器系のアレルギーが出にくいとのことでした(※チーズの種類によっては妊娠中、避けるべきものもあります)。
ギリシャは野菜や果物が美味しい国で、有機栽培のものでも生産者が直接販売に来る青空市場で安く購入できます。
ギリシャのEXVオリーブオイルは風味が素晴らしいので、茹でた野草(青菜)や野菜のサラダなどにかけて美味しく食べられます。
妊娠中は血糖値が高くなりがちでしたが、まずオリーブオイルをかけたサラダをたっぷり食べてから、たんぱく質の肉や魚、最後にパンやパスタなどの炭水化物という順番で食べました。
指導されたこの食べ方により血糖値は上昇しなくなり、薬に頼る必要もありませんでした。
小腹が空いた時はナッツ類やドライフルーツを摂取。
ナッツは腹持ちがいいし、オレイン酸などの不飽和脂肪酸やマグネシウムも豊富です。
妊娠中は足がつる症状が出やすいですが、マグネシウム不足によっておこるので、毎日ナッツを食べるようになってからはそれが解消されたのか、めったにつりませんでした。
干し杏などのドライフルーツは食物繊維が豊富で、便秘にも効果的だったと思います。
そのような食生活のおかげか、妊娠中の健診はいつも先生に「完璧!」と言われる結果でした。
助産師さんにも驚かれるほど、産後の回復も早かったです。
食事が美味しかった産院生活
ギリシャは公立の産院なら、加入している社会保険からほぼ全額支払われるので僅かな出費で出産できます。
しかし近年は経済危機により財政難の公立病院も多く、最小限の医療スタッフ数だったり、施設の老朽化も進んでいるのが実情です。
私は開院してから2年という新しい私立の産院で出産しました。
ホテル並みにきれいでしたが、他の主な私立の産院に比べ、1泊分安い料金で、美味しい食事が評判というのが決め手となりました(笑)。
妊娠中に通院したクリニックでは一人で受診に来ている妊婦さんはめったにいなくて、夫婦一緒が大半。
産院でもほぼ1日中付き添っているダンナさんが多かったです。
男性も妻の出産で、出産日とその翌日の有給休暇がとれますが、他の有休と併せて4日ほど取得する人が多いとのこと。
当地では無痛分娩による出産が大半ですが、その産院では無痛分娩で3泊4日、帝王切開は4泊5日がスタンダード。
個室の場合はその入院費に夫の分の食事も込みで、必要な場合は2人分運んできてもらえました。
昼食と夕食は、前菜やメインを選べるメニューでデザートも付き、かなりのボリューム。
野菜をふんだんに使ったギリシャの家庭料理で美味しかったです。
食事の合間にはヨーグルトや果物のコンポート、ハーブティーなども出ました。
昼夜問わず2時間おきの授乳は始まるし、助産師さんに教わることも多く、それが外国語となると余計に疲れましたが、満足な産院生活でした。
ギリシャの産休育休事情
アテネは共稼ぎの家庭が大半。
企業で働く女性は119日の産休育休がとれますが、産前56日、産後63日という規定です。
産後63日での復帰は赤ちゃんが生後2ヶ月で、まだ夜中の授乳もあったりして大変な気がします。
また復帰後は30ヶ月に渡り、1時間の遅出もしくは1時間の早退(12ヶ月2時間の遅出か早退と6ヶ月1時間の遅出か早退も可)ができます。
1年間の休暇も法律上は可能ですが、119日を過ぎると会社から給与も社会保険料も支払われないので、とる人は少数とのこと。
保育所数なども足りておらず、銀行勤務で2児のギリシャ人ママの友人は「働きながらの子育てに祖父母の協力は不可欠。
おばあちゃんが面倒見てくれなければ無理」と言い切ります。
アルバニアなど周辺国からの移民の女性をベビーシッターとして低賃金で雇うケースも多いですが、深刻な景気後退でギリシャ人の賃金も大幅に下がっているため、最近は雇う余裕のない家庭が増えています。
それでも私の周囲のギリシャ人家庭では、子煩悩なパパが多く、家族の協力もあるからか、ハッピーな育児をしているママが多いように思います。
ギリシャは夏が長く、学校の夏休みも約3ヶ月とママにとっては大変です。
でも多くの家庭が海辺のリゾート地やエーゲ海の島などに別荘を持っているので、子供たちは幼い頃から美しい海に親しみ、伸び伸びと育っているように感じます。
妊娠中の女性や子供に優しい社会
当地にてベビーカーでのお出かけは重労働!?です。
地下鉄などの構内は普通にバリアフリーでエレベーターもあるので大丈夫ですが、問題は地上の道。
石畳でデコボコの細い路地も多いし、建物の入口には大理石の階段、スロープなどはめったにありません。
閑静な住宅街でも歩道はあまり整備されておらず、歩道に乗り上げて路駐する車や育ちすぎた街路樹で通れなかったり……。
実際にベビーカーで出かけてみると大変さが身に沁みます。
ただその分、通りかかった人が手助けしてくれることはよくあります。
バスの乗降などでもベビーカーを押す女性を周囲の乗客が手伝っている光景はよく見かけます。
子連れだから「すみません」というような肩身の狭い気持ちにはならず、「ありがとう」と言える機会が多いことは子育てをする上で心強いです。
家の近所をベビーカーで散歩していても、杖をついているお年寄りが笑顔で端に寄って狭い歩道を通してくれたり、以前は会話したことのなかった近所の人が赤ちゃんを見て話しかけてきたりと、明るい気持ちになることが多いです。
妊娠中の女性や赤ちゃんを大事にする社会の雰囲気を感じとることができます。
こちらの親戚や友人も、ギリシャの暖かい陽射しの如く、息子を心から可愛がってくれます。
今後も異文化の暮らしのなか、子育てをしていく上でも考え方の違いに悩まされたり、落ち込んだりすることはあるでしょう。
そんな時、これらの体験を思い起こそうと思います。
執筆時点で息子は生後3ヶ月になり、表情がとても豊かになってきました。
あやしたり話しかけたりすると本当に嬉しそうに笑ってくれます。
この国の新たな美点を気付かせてくれた息子に感謝しつつ、幸せな気持ちで子育ての大変さと楽しさを実感している毎日です。
有馬 めぐむ
名古屋の出版社で記者職を経験後、2000年よりフリーランスライター。国際会議の仕事でギリシャ・アテネに長期滞在し、2007年結婚を機に移住。日本の新聞、雑誌、ウェブサイトなどに、ギリシャの政治経済情勢や社会事情、観光情報まで多角的に発信中。共著に『「お手本の国」のウソ』(新潮新書)、『世界で広がる脱原発』、『世界が感嘆する日本人』(共に宝島社新書)。