第17回:英国 助産師として働きながら4人の子育て
私と英国の出会い
ママココ大阪読者のみなさま、こんにちは!
英国で助産師をしている、宮内はるみです。
私と英国の出会いは、学生時代に英語の勉強のためにロンドンに6ヶ月間滞在したことから始まります。
その時、英国がすっかり気に入り、いつかまた戻って来たいと思っていたのですが、そのチャンスはしっかりと訪れました。
日本で看護師の資格を取得し、東京の病院で働いている時、英国の病院で看護研修をする機会があり、再渡英したのです。
その後、ロンドン大学で3年間の看護学を勉強中に、同じ大学のエンジニア科に在籍していた英国人の夫と出会い、結婚しました。
そして、英国で出産をしてから、「助産師になりたい」という気持ちが強くなり、長男が18ヶ月の時に大学に戻り、助産学(18ヶ月)を学んで資格を得ました。
現在は、ナショナルヘルスサービス(国営医療)の病院で働きながら、4人の子育てをするという、忙しい日々を送っています。
帝王切開が多い、英国の出産
英国は全国的に帝王切開の率が高いといわれています。
私の勤める病院は年間6000件の出産を取り扱う総合病院ですが、帝王切開率は33.7%。毎年約2000人の赤ちゃんが帝王切開により産まれています。
帝王切開と一口にいっても、それには緊急と計画があります。
緊急帝王切開は、自然分娩で始まり、お産が途中まで進んだところで、お腹の赤ちゃんが仮死状態になるなどの緊急事態が発生した場合に、出来るだけ早く取り出し治療することで赤ちゃんの生命を救うのが目的の帝王切開です。
計画帝王切開は、医学的な理由で普通分娩ができない、たとえば前回が帝王切開での出産、お母さんがHIVのような感染病をもっている、赤ちゃんが逆子、横位である、お母さんの骨盤と赤ちゃんの頭囲のサイズが不適合、前置胎盤といった理由が主ですが、たまにお母さんが特殊な理由によりリクエストするケースもあります。
たとえば、出産予定日の頃、ご主人やパートナーが出張で不在になるため、早めに産みたいといった産婦の都合によるものです。
ちょっとミーハーな話になりますが、英国の有名なフットボールの選手のディビッド・べッカム選手の奥さんのビクトリア・ ベッカムさん(スパイスガールズという元ポップグループのメンバーで、ポッシュスパイスと呼ばれていました)は、いきむのがいやで帝王切開を希望したそうです。
あまりの理由だったので、それをはやしたて「Too posh to push」お上品過ぎていきむなんてできません、という言葉が流行ったほどです。
もっとも有名人やお金持ちの人たちは、プライベートで産科医を雇い、何でも希望通りになるかもしれませんが、ナショナルヘルスサービスではそのような親の都合だけでの計画帝王出産は簡単に認められません。
私自身も次男が逆子だったため、帝王切開での出産経験がありますが、帝王切開は危険が伴いますし、産後の母体の回復を考えると、普通分娩の方がずっと楽ですから、個人的には必要のない帝王切開は希望したいとは思いませんね。
それでも、全国的に帝王切開が増加しているのは、患者からの訴訟問題が殖え、病院側が訴えられることを恐れて、一昔前はもう少し待ったという緊急帝王切開のケースも、近年では少し異常があるとすぐ帝王切開になってしまう傾向も理由のひとつと考えられます。
有意義に過ごした産休期間
私の病院は、12週間は給料の全額、その後12週間は週100ポンドのマタニティー給付金が出ます。
その後の半年は無給ですが、合計で1年間の産休を取ることが出来ます。
給付金がなくなった後は、特に共働きのカップルなどは経済的に大変になりますので、6ヶ月後に職場復帰する人たちがほとんどですが、私は出来るだけ子供といたかったので、夫と相談し、1年間の産休を取らせてもらいました。
英国は育児支援のための制度がよく整っていて、お母さんが利用できるサービスがたくさんあります。
たとえば、保健師がアレンジする産後の勉強会、ベビーマッサージのクラス、母乳育児の会などは、すべて無料なので、私もいろいろ参加しました。
また、近所に住む同じ頃に出産したお母さんたちが何人か集まり、お茶をしながら子供たちを遊ばせ、おしゃべりする「コーヒーミーティング」は私のお気に入りでした。
子供を連れて公園に散歩に行くと、必ず誰かが声をかけてくれるので、同じ道に住んでいたのにそれまでは知り合うこともない者同志が、話をしたことから親しくなったこともありました。
私の場合は、助産師という職業柄、お母さんたちには指導者という立場で接することが多かったのですが、同じ母親の立場で親睦を深めると「受身の立場」が理解できるようになり、見えることがちがって、とても勉強になりました。
ベビーグループで知り合ったママ友達とは今でもお茶をしたり、夜食事に出かけたりと、交流を続けています。
子供がいることで友達の輪が広がったのは、私にとって大きなボーナスでした。
職場への復帰
産休が終わり、仕事に復帰する時に一番の心配は、子供たちをどこに預け、誰に世話をしてもらうかという問題です。
英国の一般的な子供の預け先としての選択肢は、保育園、チャイルドマインダー、ナニー、そして祖父母といったところです。
保育園は朝7時から夕方6時まで長く預かってくれて便利ですが、人気のある保育園はいつも満員でなかなか入れないため、赤ちゃんが生まれたら、すぐに予約をする親も多いようです。
チャイルドマインダーというのは、子供が成長したか、現在子育て中の育児経験者が、子供を自身の家で預かってくれる人のことです。
赤ちゃんから就学前までは親が留守中ずっと、就学後は親の代わりに子供たちを学校に迎えに行き、親が引き取りに行くまで面倒を見てくれる仕組みです。
また、経済的に裕福な家庭では、ナニー(乳母)通いまたは住み込みで雇うこともあります。
さらに祖父母にベビーシッターを頼み、経済的にも精神的にも安心という人たちもいます。
うちの場合は、義母は仕事をしていましたし、私の両親は日本で、頼める家族はなく、そのような幸運には恵まれませんでした。
でも、フレキシブルで信頼のおけるチャイルドマインダーを見つけることが出来て、長男のときからもう13年以上のお付き合いをしています。
こうなると彼女は家族同様で、子供たちも「アンティーダイアナ」と慕う、我が家にとっては第二のお母さんです。
フレキシブルな労働時間
英国の学校は、子供が12歳になってシニアスクールに上るまで親が学校の送り迎えをしなければいけません。
朝8時に学校に送って、午後3時半に迎えに行きます。
ターム(学期)の間にハーフタームといって1週間の休みがあり、夏休み6週間、春休み2週間、冬休み2週間と、とにかく休みが多いため働く母親にとっては頭の痛いことです。
フルタイムで仕事が出来ないお母さんも多いなか、幸いにも私の職場では子育てママにはうれしい、フレキシブルな労働時間が選択できるので、母親たちはうまく適応しています。
主な働き方には、パートターム、子供が学校に行っている時間帯とターム期間のみ働くタームタイムオンリー、夜勤専門、週末のみの勤務などがあります。
私は2人目の産休を終え、職場に戻ったときにフルタイムからダブルシフト(12時間半勤務)を週2日こなすというパターンのパートタイムに変更しました。
このシフトなら仕事を始めても週に5日間は子供たちと過ごせます。
助産師は日勤だけでなく夜勤や週末もカバーしなければならないので、小さな子供がいるお母さんにとってこの融通のきく労働時間はとても助かります。
育児に‘ハンズオン‘のお父さん
私のママ友達の家族を見る限り、英国のお父さんたちは一般的に子育てにとても協力的だなーと感心します。
我が家の場合も、遅くまでの残業もほとんどなく、仕事が終わったらまっすぐ帰宅して、子供たちと遊んだり、宿題を見てくれたりします。
私がシフトの日は、朝学校に送り、夕方チャイルドマインダーのところに子供たちを迎えに行くのはお父さんの仕事です。
週末のシフトの時は、子供たちの世話、掃除、洗濯、買い物、料理まで全部やってくれるのです。
子供たちもお父さんと過ごすのが大好きですが、ひとつだけ苦情が。
「ダディーの料理はいつも同じものばかりで飽きちゃったー」と子供たちから文句が出て、お父さんも大変です。
それでも、私にとっては主人の手助けがあるからこそ、仕事と子育ての両立が出来るのだと、とても感謝しています。
家族の大切な時間
シフトの時は長い一日で、私が朝出かけるときには子供たちはまだ起きていませんし、夜仕事を終え帰宅すると、もうみんな就寝しています。
何日かシフトが続くと子供たちに会えないこともしばしば。
でも、シフトが終わり久しぶりに会った日に、子供たちからたくさんのハグとキスをもらう時、最高に幸せな気分になります。
みんなで競って私が不在中に起こった出来事を報告してくれ、彼らには私の知らない世界があるんだなーとちょっぴり寂しく思うとともに、しっかり環境に適応してくれている子供たちを頼もしく感じます。
私が休みの週末はフィルムデー、ゲームデーといってポップコーンを作って、ジュースを飲みながら映画鑑賞をしたり、ゲームをしたりして家族で過ごします。
また、お天気のいい時は公園を散歩したり、ピクニックに出かけたりして家族と一緒の時間を目いっぱい楽しみます。
このリラックスした空間に感じる満足感、充実感が私のエネルギー源なのです。
仕事と子育ての両立は忙しく、大変ですが、でもこのバランスが私は好きです。
お母さんがハッピーでいると家族もみんなハッピーなんじゃないかなって思います。
宮内 はるみ
静岡市出身、在英28年目。
英国人の夫、4人の子供たちとロンドン郊外に在住。
英国の大学で助産学を学び、地元の病院(ナショナルヘルスサービス)に勤務する。
母乳育児の専門家として、英国に住む日本人の妊婦さん、お母さんたちを対象に母乳育児ワークショップ、母親学級、産後のサポートグループをボランティアで開催中。
英国の医療機関で働く者として、内側からみた出産、育児、医療、教育などの情報を日系のニュースレターなどに発信している。
医療通訳としても活動中。