第19回:ドイツ 親もゆったり、マイペース子育て
妊婦生活は自然体で
ママココの読者のみなさま、はじめまして。
ドイツ在住の田口理穂と申します。
1996年より北ドイツのハノーファーに住んでいます。
ニーダーザクセン州の州都で、人口約50万人。
オペラハウスや飛行場、総合大学、博物館となんでも揃っており、かつ緑が多く快適です。
ドイツは日本とほぼ同じ感覚で生活でき、社会保障がしっかりしているため安心です。
2007年に男の子を生んだ経験をもとに、ドイツの出産、子育てについてご報告します。
妊娠がわかったとき、「妊娠は病気ではないから、今までどおりに生活して大丈夫」とお医者さんにいわれました。
お酒とたばこは控えるべきですが、甘いものやコーヒーは問題ないし、20キロ太ってもかまいません。
散歩をどんどんするよういわれ、自転車も臨月まで乗りました。
ドイツでは妊娠、出産にかかわる費用はすべて、健康保険でカバーされます。
出産のとき病院に何日滞在したいかも本人の自由。
3泊4日が一般的ですが、自分で決められます。
部屋は2人部屋や4人部屋など病院によってさまざま。
私は母乳の出が安定しなかったため、2人部屋に6泊しましたが、半分は隣のベッドは空だったのでひとりでした。
最近は助産士さんのところで産みたい人も増えているようです。
ドイツでは赤ちゃんが生まれてから生後10日まで毎日、その後も生後16週間まで10回助産師さんが自宅に来てくれます。
赤ちゃんの体重を計り、健康状態をチェック。
お乳のやり方や入浴の仕方をはじめ、赤ちゃんのお世話全般について教えてくれます。
費用はこちらも自己負担ゼロ。
生後半年ころに離乳食の指導もあり、最高30回まで訪問してくれます。
助産師さんが身近な相談役になってくれるので、周りに赤ちゃんのことを聞ける人がいなくても安心。
赤ちゃんのお世話だけでなく、急に子どもとふたりきりで自宅にいることになったママを、精神的にも実際的にもサポートしてくれるありがたい存在です。
ママの子宮の回復具合をおなかを触ってチェックし、体重が早く戻るよう骨盤体操を教えてくれます。
また教会や公益団体の主催で、さまざまな親子教室が用意されています。
数ヶ月単位なので、気軽に通うことができます。
私も息子が1歳10ヶ月で幼稚園に入るまで、水泳やベビー音楽教室、「五感を使って遊ぼう」などさまざまなプログラムに参加しました。
週一回で全9回、7000円程度と手ごろな値段です。
子供同士遊ばせながら、他のママたちと情報交換することができ、気分転換になりました。
先生は子どもの個性を尊重し、子どもたちが楽しみながら発達する手助けをするというスタンスでした。
待機児童ゼロ!
ドイツの女性ひとりが一生の間に生む子どもの数は1,36人(2011年)と、日本並みの低さです。
40歳から44歳の女性の5人に一人は子どもがいません。
移民が多いとはいえ、なんか出生率を増やそうと政府は四苦八苦しています。
そのひとつが、18歳までひとりあたり毎月184ユーロがもらえる子ども手当。
3人目は190ユーロ、4人目からは215ユーロと増額になります。
他に、会社勤めをしていると出産前の6週間と出産後の8週間は全額給料が保証され、その後の育児休暇中も出産から最大14ヶ月後まで手取りの67%(最高1800ユーロ)が親手当てとしてもらえます。
この制度を利用して12月後まではママが、その後の2ヶ月間はパパが取る家庭が増えています。
また半日の時短勤務で職場復帰した場合、手当ての半分が24ヶ月にわたって支給されます。
その後は無給となりますが、子どもが3歳になるまで育児休暇が取れよう保証されており、企業は出産前と同じまたは同等の職を用意しなければなりません。
学生や専業主婦は毎月300ユーロの手当てが同じく最高14ヶ月まででます。
専業主婦でも子どもが3歳までは「子どものために時間を費やしている」という意味で、毎月2500ユーロ相当の収入があるとみなされ、その分の年金がつきます。
すなわち3年ごとに3人産めば、9年間月収2500ユーロの仕事についていたのと同じ額の年金をもらう権利が生まれるというわけです。
医療費は基本的に子どもも大人も無料で、18歳以下の子どもは薬代も無料になります。
特筆すべきは、待機児童ゼロ対策です。
2013年8月より、1歳以上子どもは希望すれば全員保育園に入れることが法的に保証されています。
私の住むハノーファー市でも、この法律を受けて2013年に8園が新設されました。それでも満員で入れない場合、市認定のベビーシッターを紹介してくれます。
子どもを園やベビーシッターに預けない場合、月150ユーロが家庭に支給されます。
幼稚園には税金が使われているので、不平等のないようにという理由からです。
ちなみにドイツでは幼稚園と保育園の区別はありません。
通常3歳になると幼稚園に通うので、園によっては3歳以下のクラスも併設するという形です。
1歳から3歳まで、3歳から6歳までの縦割りクラスが一般的です。
誕生日会は盛大にお祝い
ドイツでは誕生日はとても大事。親戚や友人などあちこちから「おめでとう」の電話があり、無事誕生日を迎えたことを一緒に喜んでくれます。
友達や家族を呼んで誕生日会をしますが、日本と違うのは、自分がセッティングして招待すること。
費用は自分持ちで、招待された人はプレゼントを持参します。
自宅で開くのもよいのですが、最近はボーリング場や動物園、遊技場をはじめ、博物館でするのがはやっています。
ハノーファー市でもいくつかの博物館が、誕生日用プログラムを用意しています。
市庁舎そばにあるケストナー博物館では、火おこしなど当時の様子を再現する「古代の生活」や、古代エジプトの風習を学び女王の化粧や衣装をまねる「エジプト」が人気です。
楽しみながら、歴史や文化について学べるとあって、親からも好評です。
体験型の子ども博物館ツィノバアでも、学芸員が3時間子どもと一緒に、展示内容について説明し、ゲームや工作を一緒にします。
8人までで約15000円。
お菓子やケーキは自分で持ち込みできます。
動物園では探検隊の服を着たお兄さんやお姉さんの案内で動物の生態を観察した後、宝探しをしたり、トランポリンをしたり。
一人2000円と高額ですが、子どもたちは笑顔満面。
少子化ということもあり、年に一度の誕生日を盛大に祝ってやりたいという親心が反映されています。
子どもたちが大喜びしているのを見ると、年を取るのは本来うれしいことなんだったんだと思い出します。
子育てはマイペースで
ドイツでは、日本ほどワークバランスについて議論されていませんが、それはある程度達成されているからかもしれません。
残業は少なく、父親も子どもを習いごとに連れて行ったり、週末は一緒に大工仕事やボードゲームをしたり。
事務職ではフレックス制が普及していますし、月曜日から木曜日まで毎日30分から1時間残業をして、金曜日は半ドンという職場も多くあります。
日曜日は法律によりスーパーやデパートなど小売店は閉まっていますから、散歩をしたり、友達を訪ねたり、家族で過ごすことが多くなります。
パパと親子で楽しむ水泳教室が週末にあったり、育児休暇を取って子どもの面倒をみるパパも増えてきました。
1年とるパパはまだ小数派ですが、私の周りでも1、2ヶ月取った人は何人もいます。
息子は日本では1年生ですが、夏から新学期が始まるドイツでは小学校2年生になります。
パパがギリシア人とドイツ人のハーフなので、パパとはギリシア語、私とは日本語、外でドイツ語で話しています。
息子が通うカトリック系の小学校は母国語教育に力を入れており、ギリシア語をはじめポーランド語、スペイン語、ポルトガル語の授業が用意されています。
息子はギリシア語を習い、宗教の授業ではギリシア正教について学んでいます。
日本語は週に一度、補習校に通っていますが、漢字は書くのはもちろん読むのが難しいのだとつくづく実感。
3カ国語を話すのは苦労なくできるようになりましたが、読み書きは座って勉強しなければいけないので大変。
これからが親の頑張りどころですね。
学校は大学まで無料で、受験はないので、日本のような学習塾もありません。
大人も子どもも趣味やボランティアを楽しみ、自分の頭でじっくり考える時間があるように思います。
子どもを育てることは、自分の子ども時代をもう一度なぞるようなもの。
子どもを通して、もう一度たくさんの「初めて」を体験しています。
大変なこともあるけど、あくまで期限付き。
子どもは無条件にかわいいし、いずれ親元を離れていくのだから、今しかない子どもとのラブラブ期を十分楽しもうと思っています。
田口 理穂(たぐち りほ)
ジャーナリスト、裁判所公認通訳・翻訳士(ドイツ語-日本語)。日本で新聞記者を経て、1996年よりドイツ在住。ライプニッツ・ハノーファー大学社会学修士。2001年よりNPOごみ環境ビジョン21の「理穂のドイツ便り」でエコ事情について書いているほか、ドイツの環境政策や政治経済、教育について「ウェブロンザWEBRONZA」「オルタナ」「婦人公論」「週間金曜日」「アエラ」などさまざまな媒体に執筆。環境視察ツアーやテレビ番組のコーディネートや通訳もしている。著書に『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)、共著に『「お手本の国」のウソ』、「ニッポンの評判」(共に新潮新書)。