政府目標『2020年に指導的地位に占める女性の割合を30%とする』いわゆる「202030(ニィ・マル・ニィ・マル・サン・マル)が掲げられています。数値目標に関する議論はありますが、現実問題、女性の就業者がほぼ40%以上いるのに対し、女性管理職が育っていない(平成27年度 12.5%)のは事実です。

「黄金の3割」という言葉をご存知でしょうか?構成人員の30%を少数派が占めると、意思決定に影響力を持つようになるという考え方で、米ハーバード大学ビジネススクールのロザベス・モス・カンター教授が提唱しました。

会社などの意思決定の場において、様々な立場の人々が参画し、活発な議論が行われてこそ、良い決定ができるのです。女性も中に入り、参加すべきなのです。

1.女性管理職を育てる意味

多くの企業で、課長以上の管理職は男性が大半を占めています。
女性管理職が増えるということは、性別を問わず人材を貴重な戦力として育て、活用していることを意味し、グローバル化、人材不足が進む日本の企業にとって、喫緊の課題です。

1.時間制約社員も活躍できる環境の整備

女性管理職を育てることは、子育て女性だけの問題ではありません。
これからは、団塊の世代が後期高齢者となり、大介護時代に入ります。男女共に、時間制約が無く働ける人はますます少なくなります。

管理職も例外ではありません。時間制約を抱えることが多い女性が活躍できる環境を整えるということは、今後増える時間制約がある男性も含めた全ての社員が活躍できる環境の整備することでもあります。

2.経営の中核を担う多様な人材を育成

グローバル化が進む中、女性をリーダー、管理職に登用しない男性ばかりの企業は、どこの国でも受け入れられません。
また、「内部昇進型の男性」だけで構成された役員会では、Noと言えない空気が漂っていて、危機に対して弱さがあると指摘されています。

経営幹部の多様性を高めることで、様々な議論が起こり、環境変化や困難に直面した時の企業組織の強さとなります。
多様な価値観・知識・経験を事業や経営に取り入れるという観点からも、多様な人材が力を発揮できる環境を整備し、育成し、経営の中核を担えるよう登用することが重要です。

2. 女性管理職登用への課題と方策

女性管理職の登用が進まないのは、女性人材の「数」と「質」両方が不足しているからです。ここでいう質は管理職昇進に必要な、知識・経験・年数などです。3つの切り口(会社・管理職・女性)から、原因と解決に向けた方策を考えてみます。

1.会社側の課題

これまで、日本の企業は、男性社員を中心に構成されていました。「時間制約のない男性」という画一的な働き方を前提として、会社の人事の仕組みや業務慣行が成り立っています。今までは当然のこととして、意識されてきませんでした。

しかし、性別や時間制約にとらわれず、優秀な人材を確保し、その力を活かしていくには、そのような人事の仕組みや、業務慣行を見直していく必要があります。

①女性社員の採用拡大と職域の拡大

まず、女性社員の採用を増やすことです。数を増やさないことには、経験を積み、管理職になる女性も現れません。母数を増やすことが必要です。

募集段階で、女性の応募者が少ない場合、なぜ女性の応募が少ないのかを分析した上で、施策を実行していく必要があります。例えば、男性だけでなく女性にも効果的に募集内容をアピールできているか、女性も働きやすい、活躍できる職場であることが伝わっているかなどです。
また、女性が満たしにくい条件が形だけで残っていないか、など採用選考ルールも見直しが必要です。

そして、職域を拡大していくことも必要です。男女の配属先に偏りが無いでしょうか?これまでのように、女性は事務、男性は営業や技術職などの基幹業務といった明らかな配属の違いは少なくなったように感じます。しかし、ブームのように配属したり、止めたりというケースも見受けられます。

同じ配属先になっても、支援的な業務が多かったり、重要度の低い顧客を任せたりしていないでしょうか? その時その時のわずかな差が、後々大きな差となります。

「社内事情を知らない」「経験の幅が狭い」「社内の人脈が少ない」と、昇格や登用の時になって、マイナス評価につながり、本人たちも悩みを抱えることになります。

②評価制度の見直し

「働き方改革」「ワークライフバランス」といった言葉の浸透により、残業を削減することに対する意識は高まってきました。しかし、まだまだ長時間働くことを「頑張っている」と評価する風土や、「男性で、家族を養わないといけないから・・・」といった能力や成果ではない評価・登用基準になっているケースがあります。

これでは、限られた時間の中で成果をあげる人や、女性は意欲を失ってしまいます。
時間当たりの生産性や、能力・役割・成果に基づく透明性の高い評価制度に見直し、公平公正に評価することが求められています。

・能力、役割、成果を基軸とした透明性の高い人事考課を実施する
・長期間働きつづけることが優遇される年次昇給の廃止
・地域を超えた転勤を広く従業員に求めるといった慣行の見直し

③制約社員が活躍できる環境整備

育児・介護休業法をはじめ、会社の両立支援制度は整いつつあります。今後は、育児休業からの早期復帰支援や、在宅勤務制度やフレックスタイム制度など、時間と場所にとらわれず仕事ができ、成果で評価される環境が必要とされています。

また、営業職の総合職女性が職場で初めて育休を取得する場合、なるべく営業職で復帰できるよう、部署全体で残業を減らす取組みや、短時間勤務時の数値目標の設定方法、顧客への理解を求めるなど、組織としてバックアップしていくことが必要です。
法律では前の職場に戻させることが義務づけられています。

④トップによる継続的な発信・率先垂範

人が育つのには、時間がかかります。イベント的に盛り上がって終わることのないよう、経営トップが強い信念を持ち、トップダウンで継続的に進めていかねばなりません。
そのためには、社長自らが、「性別を問わず、従業員が成長することが会社の成長につながる」という信念を、経営上の利害と一致する言葉で継続的に社内外にメッセージとして伝えていくことが、成功のカギとなります。

2.育成側(管理職)の課題

女性部下を育成する上で、一番影響力があるのは、職場の上司です。活躍している女性に話を聞くと、「上司が熱心に育ててくれた」ということが多く聞かれます。女性部下を育成する管理職についての課題と、解決に向けた方策を4つの切り口(4K=4つの「き」)でまとめます。

①決めつけない(きめつけない)

「女性の幸せは結婚、出産」「出産したら、責任のある仕事は荷が重いだろう」「女性は管理職に向かない」という意識が管理職にないでしょうか?そのことが、部下の育成や仕事のアサインに差をつけていないでしょうか?

こうした性別役割分担意識や固定概念が、仕事の場で女性の成長機会を奪ってしまいます。
個人的な心情、考え方はもちろんあることでしょう。しかし、管理職として、企業の経営資源である人材を最大限に活かすことを考えていく上では、「これくらいだろう」といった見方ではなく、部下一人一人の意欲を引き出していくことが必要です。

②鍛える

公益財団法人21世紀職業財団が2015年12月に公表した「若手女性社員の育成とマネジメントに 関する調査研究」によると、「仕事で面白いと思った経験」が、昇進意欲に強い影響を与えるという調査結果が出ています。

しかし、3割強の男性管理職が、「困難な仕事や責任の重い仕事は、男性部下に与えている」と仕事の付与に男女差があると回答しています。
また、結婚や育児の配慮について、男性管理職では、育児中の女性に「困難な仕事をさせないように配慮している」とした 人が 4 割、「責任の重い仕事をさせないように配慮している」とした人が 4 分の1いるという結果が出ています。

若手女性はもちろんですが、結婚した女性、育児中の女性に配慮し過ぎることは、成長の機会を与えず、意欲の低下につながることになります。知らず知らずの間に、マミートラックという成長につながらないルートに乗せてしまうのです。

時間制約がある場合、仕事の量は時間に応じて調整し、出来る限り仕事の質を保つよう、アサインをしていく必要があります。

③期待する

上述の調査研究では、管理職は「男女ともに期待している」と答える人が多いですが、男女若手社員の側から見ると、「管理職から期待されていると思いますか」 との質問に、「そう思わない」「あまりそう思わない」と回答した割合は、若手男性社員では 17.7% に対し、若手女性社員では 27.6%と、女性の方が期待されていないと感じている結果が出ています。

男性は、仕事後の飲食の場や喫煙ルーム等、インフォーマルな場でも「次の昇進はお前だぞ」といったような声掛けがなされるのに対し、女性はそのような機会が少ないです。意識的に、「期待している」ことをメッセージとして伝えていくことで、差は埋まるのではないでしょうか。

引用:公益財団法人21世紀職業財団 「若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究」
(URL:http://www.jiwe.or.jp/research-report/2015development_and_management)

④機会を与える 

 
②の鍛えると関連していますが、鍛えていくには、重要顧客の担当、取引先の交渉など、積極的にチャレンジする機会を与えることです。
その場でとどまることを望んでいる場合は、チャレンジの意味や目的を十分説明し、最初は階段を低く設定し、「できる」という自信を持たせます。

男性と比べ、同じように力はあっても慎重な女性が多いです。「やってくれ」「はい」という場合に比べ、面倒だと感じるかもしれませんが、丁寧にコミュニケーションを取っていくことで、不安は解消に向かいます。

3.女性側の課題

育てる側の男性管理職にも固定概念があると述べましたが、女性の側にも同様に性別役割分担意識や、固定概念があり、知らず知らずのうちにブレーキを踏んでいます。

これまでの長時間労働を前提とした働き方や、体育会系のリーダーシップなどこれまでの管理職像にとらわれず、自分に合った働き方、リーダーシップスタイルを作り、成果を出していくことが、求められています。

①管理職になる意識を持つ

これまで、自分が将来管理職になるかもしれない、という意識を持って仕事をしてきた女性は、多くないのかもしれません。また、女性は男性に比べ、自分を過少評価する傾向があり、「自分が管理職だなんて、無理!」と思う人が多いようです。

まずは「無理!」とは思わずに、この仕事の先には管理職の選択肢もあるのだという意識を持つと、仕事に対する視線も違ってくるのではないでしょうか。

②チャレンジする  

今のポジションのままで良いという人がいますが、変化しない、成長しないということは、変化が激しい時代にかえってリスクとなります。
全員が管理職になれるわけでも、全員が管理職をめざすべきということでも決してありませんが、仕事を通じて、成長していくという姿勢が大切です。

自分に来た仕事は、少し不安でも、チャレンジしてみるということが大切です。上司や周囲の支援を受けながらでもやり遂げる。自信や達成感というのは、自分でチャレンジしたことでしか生まれません。

③固定概念を無くす

「母親が仕事でいないから、病気にかかるのでは?」「女性が目立つと嫌がられるのでは?」など、自分の中にある女性、妻、母親像が、ブレーキになることがあります。また、夫や祖父母から「母親なんだから・・・」と言われて悩む人もいます。

固定概念というのは、誰にでもあるものですが、自分が望む方向に進むためのブレーキになっていないか、そのブレーキは踏む必要があるのか、を常に自分に問いかけてみましょう。
そして、周囲にも、自分の仕事に対する考え方や思いを理解してもらえるよう、伝えていくことも必要です。

④家庭と子育ての両立 

  
下のグラフは、少し古いデータになりますが、末子が3歳未満の共働き世帯の夫と妻の1日の仕事、家事・育児、自由時間についてのデータです。
これを見ると、共働き世帯でも圧倒的に、家事・育児のほとんどを妻が担っていることが分かります。
家事育児をお願いしたくても、長時間労働で帰りが遅いため、頼めないという家庭も多いです。

女性のみが家庭責任を担う状態では、仕事で活躍する意欲にもブレーキがかかります。また、男性の家庭参画の機会も奪います。働き方を見直して、男女ともに家庭責任が果たせるようにしていかねばなりません。

また、単身赴任や、どうしてもパートナーの協力が得られない場合、上手にサービスを活用するなどして、一人ですべてを背負わないよう、工夫をしていきましょう。
(ベビーシッター、病後児保育、家事お手伝いサービス、食材配達など)

(引用:平成20年6月20日 総務省 統計トピックスより)
   (URL: http://www.stat.go.jp/data/shakai/topics/topi30.htm)

⑤男性と同じようにしない

「管理職になりたくない」という女性の中には、今の管理職像が魅力的に映っていないのかもしれません。「長時間会社で仕事をして、家庭に支障をきたす」そんな風に感じているのかもしれません。

管理職になったら、他の男性管理職と同じようにする必要はありません。限られた時間の中で成果を上げる、チーム全体で成果を上げることを意識して、自分なりのワークスタイルを築いていけば良いのです。

また、「私にはリーダーシップが無い」と言う人もいますが、体育会系の統率型リーダーシップでなくても、支援型リーダーシップ(サーバントリーダーシップ)を発揮し、部下が仕事をしやすいように支援するという方法もあります。リーダーシップの形も人それぞれです。

管理職の役割は、人を動かしてチームとして成果を出す事。実現への方法は、色々あるのではないでしょうか。

⑥管理職に必要な知識・スキルを身に着ける

管理職やリーダーに必要な知識・スキルとして、以下のような視点、知識、スキルを身に着けておきましょう。特に、女性は数字が苦手だったり、論理的な思考が苦手の人が多いようです。
自分に必要な知識、スキルは何かを考え、積極的に身につけていきましょう。

 1.経営視点、数字視点
会社の経営理念、経営方針、事業系買うに関する研修や、自社製品、サービスの理解を通じて、会社と仕事に対する理解を深めておくことは、今の仕事が会社の何に繋がっているのか、会社の一員としてどう動くべきかなどを知ることができ、仕事を大きくとらえることができます。

 2.マネジメント、リーダーシップ
 人をマネジメントするための、リーダーシップやマネジメント、部下育成に関する知識やスキルを研修などを通じて知っておきましょう。管理職にならずとも、後輩の育成やチームとして部分的にリーダーシップをとり実践していくことは可能です。親身に部下や後輩と向き合えることは、強みになるのではないでしょうか。

4.海外での先進解決事例

クォーター制

日本ではなかなか進まない女性の管理職登用ですが、海外での解決策として先例があります。
クォーター制(Quota System)」です。ノルウェーが発祥で、国民構成を反映した政治が行われるべきだという考えから、政治家や公務員の人数を制度として割り当てたのが始まりです。

その後、上場企業の取締役会にも、クォーター制が適用されました。現在では、ノルウェー、オランダ、フランス、イスラエル、スペイン、アイスランドなどで導入されています。
EUによると、女性を多く活用している企業は、売上・財政面でより良い実績を出す傾向にあります。

すでにクオータ制を導入済みの国では、導入前に「企業の競争力が落ちる」として強い反発がありましたが、これまでのところ経済への悪影響は見られず、女性役員がいない企業と比較してより好業績との調査結果も出ています。
参考:独立行政法人 労働政策研究・研修機構コラム「イクメンと企業役員のクオータ制」
(URL: HTTP://WWW.JIL.GO.JP/COLUMN/BN/COLUM0188.HTML)

以上、日本の女性管理職登用に関する課題・方策についてまとめてみました。日本でもクォーター制など議論されていますが、まだまだ熟していないようです。女性人材育成は待ったなし!
実力が備わった素敵な女性管理職が、どんどん増えていくことを願っています。

参考:
女性が活躍する会社 (大久保幸夫、石原直子 著/日経文庫)
女性活躍の教科書 (麓 幸子 著/日経BPヒット総合研究所)
実践ダイバーシティマネジメント (リクルート HCソリューショングループ/英治出版)
中堅・中小企業の経営者のための女性社員の戦力化(平成23年度厚生労働省委託事業 公益財団法人21世紀職業財団)

●● womans-worklifeより●● 
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女性管理職育成は、男性管理職に対してもまた、女性自身に対しても厳しい目線を持っていただかなくてはいけません。
また固定概念を除き自覚をもってもらうためには、第三者の専門家の存在が重要になってきます。自社だけではスピードがかなり遅くなってしまう分野です。

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