よくあるお悩みと解決策

1. 管理職の打診をしても受けてくれない

「優秀な女性に管理職の打診をしても、なかなか受けてくれない」という話はよく聞かれるお悩みです。

ソニー生命株式会社が2016年2月に行った「女性の活躍に関する調査 2016」によれば、「管理職への打診があれば受けてみたい」との設問に対し「非常にそう思う」もしくは「ややそう思う」と回答した働く女性はわずか18.7%にとどまります。

また、2015年 株式会社電通が発表した調査結果でも、働いている女性のなかで「管理職につきたい」と思う女性がわずか7.4%しかいないということがわかりました。一方、「管理職にならなくてよい」(35.2%)と「管理職になりたくない」(57.4%)と答えた「非管理職志向」の女性は全体の92.6%にも及びます

引用:株式会社電通 ホームページ
HTTP://WWW.DENTSU.CO.JP/NEWS/RELEASE/PDF-CMS/2015031-0330.PDF

この結果を見ると、「せっかくのチャンスなのに、意欲が低いのではないか」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、約半数以上の女性は、「今後も働きたい」と思っているのです。

多くの女性が、管理職になることを望まない理由として、以下のような調査結果があります。

女性が昇進を望まない理由として、「仕事と家庭の両立が困難になる」「ロールモデルがいない」ということは、以前からよく言われていることです。まだまだ家庭責任の多くを女性が担っています。仕事では均等に、家庭ではまだまだ性的役割分担が多く残る、というダブルスタンダードが残っていることは、大きい理由でしょう。

それ以外に、「メリットないまたは低い」「責任が重くなる」「やるべき仕事が増える」という理由が上位を占めています。「管理職像が魅力的に見えていない」もしくは、負の側面が目立つということではないでしょうか。長時間会社にいて、プライベートを犠牲にしているようにみえる管理職像では、挑戦しようという意欲は湧きにくいかもしれません。
そして、「自分には能力がない」「やっかみが出て足を引っ張られる」という理由は、数値こそさほど男女差はありませんが、女性に多い特性と言えます。

中でも、「自信がない」「自信を持ちにくい」ということは、多くの女性の特徴ではないでしょうか。女性は(人にもよりますが)、一般的に男性よりも自分を過小評価しやすく、100%準備が出来ないと手を上げない特性があります。男性と同じような実力があっても、「私にはそんな資格はない」「私が管理職になるなんて、そのうちボロが出るに違いない」と人をだましているような感覚になる人が多いと言われます。これは、Facebook COO シェリル・サンドバーグ氏の著書で知られるようになった言葉で、インポスターシンドローム(詐欺師症候群)と呼ばれるものです。日本人女性だけではなく、ずいぶんと女性の活躍が進んでいると思われるアメリカの女性でさえ、インポスターシンドロームに囚われてしまうというのは驚かれる方も多いかもしれません。

また、自信が持てない別の要因として、「失敗を内在化する」傾向にあることもあげられます。何か仕事でうまくいかないことがあった場合、男性は、「時期が悪かった」「商品が合わなかった」などと失敗を外的要因に紐づけるのに対し、女性は「自分の頑張りが足らなかった」「自分の能力が足らないからだ」と失敗を自分に起因するものとしてとらえる傾向にあります。いつまでたっても自信につながらないのです。

そして、“頑張っていればそのうち認められる、声をかけてもらえる”とチャンスは時期がくれば向こうからやってくる受け身のスタンスになる傾向にあります。自ら手を上げて仕事を自分で取りに行き、挑戦する男性と、経験の差ができてしまいます

これは、「やっかみが出て足をひっぱられる」という理由にもあるように、社会的に出すぎると反発を招く経験をしていることも要因としてあるのかもしれません。アメリカの大学では、成功する男性は同僚として好ましいが、そのような女性とは一緒に仕事をしたくないということを証明する実験結果も出ています。

昨今では男性も管理職になりたくない人が増えているといわれます。管理職になることだけが将来の目指す姿ではないかもしれません。しかし、次に続く世代が希望を持って活躍していくためには、まず、管理職の仕事を知り、やりがいのある役割であることを伝えていく必要があります。そして、社内全体で長時間労働を見直していくことも、第一に取り組まねばいけないことでしょう。

そして、管理職の打診をして「No」と言われたなら、決して、1回で話を引っ込めないでください
例えば、
・不安に思っていることを聴く
・管理職の仕事内容、やりがいを伝える
・なぜあなたにしてほしいか理由を伝える
・普段の仕事でも挑戦するように声をかける
など、支援する姿勢を見せ、丁寧にコミュニケーションを取ってみてください。

面倒だと感じるかもしれませんが、多様な人材を活かす組織を作るには、このような丁寧にコミュニケーションを取るマネジメントが必要とされます。そして、管理職になる前から、どんどんと仕事を任せ、自信を持たせるよう、働きかけてみてください。自信というのは、自分でやって初めてつくものです。

2. 登用しても、力が発揮できていない

男女を問わず、新しく管理職になった人は、慣れない業務も多く、労働時間や不安が増えがちです。特に、女性の場合、実際に目にしたリーダーはすべて男性であったケースが多いでしょう。どのように部下を指導したら信頼を集められるのか分からない、リーダー像のイメージが持てないなど、不安がつきまといます。
そのような困った時、助言のほしい時に、相談できる先輩管理職の存在が大きいものです。
女性の場合、ロールモデルとなる先輩女性管理職がいない、もしくは少ないです。そして、男性で構成されるネットワークには入りにくいと言われています。そのため、孤立してしまい、壁を乗り越えることが遅れてしまう可能性があります。

また、充分な仕事経験とそれによる能力開発が足りずに管理職に登用されるケースもあります。象徴人事と言われるものがそれにあたります。管理職になるためには、通常、様々な部署や幅広い業務を経験し、社内の人脈をある程度築いています。しかし、女性は、1つの部署で長くいることが多いのではないでしょうか。そのような場合、いざ管理職になった時、「幅広い業務経験が足りない」「視野が狭い」と低い評価をされ、また社内人脈が少ないために仕事も進めにくいことが指摘されています。これでは、管理職としての成果が出せず、本人にとってもつらいことでしょう。

そうならないために、様々な部署、幅広いストレッチな仕事経験を十分与え育成していく方が、厳しいようでも本人のため、そして、組織のためになります。そして、登用したら終わりではありません。経験が浅く、ネットワークに入りにくい女性管理職に対し、メンタリングの機会を設けるフォローアップ研修を実施する機会を提供していきましょう。ロールモデルやこれまでのリーダーシップスタイルにとらわれず、力を発揮できるよう支援していくことが必要です。

3. 逆差別だという声がある

繰り返しになりますが、女性の育成、特に女性管理職育成の取組みは、今まで生じていた男女間の格差を意識的に解消することです。企業の成長の為に、性別に関わらず、人材を活かすことに他なりません。

しかし、この目的が十分に正しく伝わっていないと、「女性優遇」「男性に対する逆差別だ」といった声があがります。目的が伝わり、頭では必要と分かっていても、変化に対して感情論としては歓迎しにくいといったこともあるかもしれません。

現場でこのような意見が出ると、女性の活躍推進は前には進みません。

女性管理職比率を上げるなどの数値目標をかかげることは、取組みの成果を視える化するために必要なことです。また、ポジティブアクションの手法の一つです。ポジティブアクションとは、社会的・構造的な差別によって不利益を被っている者に対して、一定の範囲で特別の機会を提供することなどにより、「実質的な機会均等を実現することを目的として講じる暫定的な措置」のことを言います。

その手法の一つとして、以下の2つがあります。
(1)クォーター制
(2)ゴール・アンド・タイムテーブル方式
クォーター制は、ノルウェーが発祥です。1978年の男女平等法の施行により、それぞれの性が40%いじょうになるように割り当てが決められました。ルールが制定された当時、企業の株価が暴落するなど、負の側面もありましたが、現在では欧州から男女平等の民主主義国家を目指す世界各国へと普及しています。
しかし、日本ではすべての企業で一定数以上女性が揃うことが難しい、数値設定は好ましくない等の意見も多く、まだまだ議論が必要です。
それに代わって、指導的地位に就く女性等の数値に関して、達成すべき目標と達成までの期間の目安を示してその実現に努力する手法、ゴール・アンド・タイムテーブル方式の方が主流となっています。

どちらの手法を取るにせよ、採用段階ではある一定の割合女性を採用しているにも関わらず、10年後の構成比率が低いのは、就業継続できる環境が整えられていないからです。女性の管理職比率が2~3%程度というのであれば、経営資源である人材を育成しきれていないということであり、是正する必要があるのは確かです。
これを解決するには、トップが一貫したメッセージを発信することです。そして、取組みが持続されるしくみ、特に経営陣、管理職に対するインセンティブが必要となります。

帝人株式会社では、サクセッションプラン(後継者育成計画)の女性欄の新設が行われました。課長クラス以上が後任候補者を推進する「サクセッションプラン」の様式に、女性候補者記入欄を設け、記入を必須としました。これにより、女性管理職候補者に対する上司の育成意識が醸成され、自ずとスポンサーシップを担い、女性候補者本人の成長・昇進につながっているそうです。
参考:帝人株式会社ホームページ
(URL:https://www.teijin.co.jp/news/2016/jbd160331_13.html)

4. まとめ

以上、女性管理職の育成に関してよくある企業のお悩みを見てまいりました。

今まで培われてきた企業風土や働く人の意識というのは、簡単には変わりません。少しうまくいかなかったからといって、取組みを辞めれば、すぐ元に戻ってしまいます。社内に失望が残るかもしれません。女性管理職を増やすということは、企業の段階によって、採用、定着、育成、登用すべての段階に関わってきます。自社の現在の状況を十分に見極め、適正な目標を設定し、計画的に、そして根気よく歩みを進めていきたいものです。

参考)
内閣府男女共同参画局ホームページ http://www.gender.go.jp/policy/positive_act/
女性が活躍する会社 日本経済新聞出版社/ 大久保幸夫 石原直子 著
中堅・中小企業の経営者のための女性社員の戦力化(平成23年度厚生労働省委託事業 公益財団法人21世紀職業財団)