1.管理職とは

1.管理職の定義と役割

まず、そもそも管理職とは、何でしょうか?労働基準法で決められている「管理監督者」とは違い、「管理職」とは、明確な定義はなく、企業独自が管理職と決め、役割は会社によって異なります。
一般的には、「課」や「部」の長としての責任と権限を任されている課長・部長などが「管理職」と言われる場合が多いようです。企業によっては、マネージャー、グループリーダーと呼ばれる場合もあります。

役割としては、「自己(自部署)に課せられた役割・目標を部下の働きを通じて遂行すること」であり、大きくは「業務の企画・遂行・改善」、「部下の育成」、「経営理念・ルールの浸透」に整理されます。
その為には、論理的思考、指導・育成力、チームをまとめる力、伝える力、リーダーシップ、交渉力、問題解決力など様々なスキルが必要になります。

2.女性活躍推進法での管理職の定義

平成28年4月に施行された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(いわゆる、女性活躍推進法)では、「管理職に占める女性労働者の割合」は基礎項目(必ず把握すべき項目)となっています。
この項目は、女性の活躍状況を見る指標です。ここでいう「管理職」とは、「課長級」と「課長級より上位の役職(役員を除く)」と定義されています。

2.日本における女性管理職の現状と課題

1.女性管理職の現状

平成27年の日本の全就業者に占める女性の比率は43.2%と欧米とほとんど変わりません。しかし、企業の課長以上や管理的公務員を指す『管理的職業従事者』に女性が占める比率は、日本はわずか12.5%となっています。

またこの12.5%の中身はというと、公務員と女性が多い病院関係を除くと、上場企業などを全てを含め2%程度だというのが、日本企業の実態だと言われています。


(引用:男女共同参画白書 平成28年版)(http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h28/zentai/index.html)

上位の役職ほど女性の割合が低く,平成27年は,係長級17.0%,課長級9.8%,部長級6.2%となっています。
政府は、「社会のあらゆる分野で2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%以上とする」目標を掲げています。年々、増加傾向にあるものの、依然として低い水準でと言わざるをえません。


(引用:男女共同参画白書 平成28年版)(http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h28/zentai/index.html)

2.なぜ女性管理職が少ないのか?

では、なぜ日本では、女性管理職が少ないのでしょうか? 社会的な問題、企業組織の問題、管理職の問題、女性の問題など、様々な要因が複雑に絡み合っていて、この事象はこれが原因と断定して説明するのは難しいのですが、整理をしてみます。

①管理職候補となる「総合職」「基幹職」の採用人数が少ない

一つには、管理職候補となる「総合職」採用の女性が少ないことがあります。これは、女性の総合職希望者が少ないこともありますが、応募者に対する採用状況を見ても、女性の方が狭き門となっています。

平成23年度では、男性が17倍(採用割合5.8%)なのに対し、女性は63倍(採用割合1.6%)です。一方、一般職採用者の男女比率を見ると、女性が9割近くを占めています。


(引用:厚生労働省 第145回労働政策審議会雇用均等分科会資料)(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000053847.html)資料4

②就業継続していない

総合職の女性は採用されて10年経過すると65%が離職しています。平成23年人口動態統計月報年計によると、第1子出生時の平均年齢は30.1歳となっており、ちょうど出産前後に離職しています。

(引用:厚生労働省 第145回労働政策審議会雇用均等分科会資料)(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000053847.html)資料4

10年前に男女の総合職を採用した企業の約半数の企業で、女性の総合職は離職しており、「10年選手の総合職女性がいない」という状況です。

管理職(課長相当職)につくまでの平均的な期間を見ると、中小企業・大企業とも15年目以上が多くなっており、管理職になる段階まで女性の総合職は就業継続できていません。
大きな理由として、仕事と育児が両立しにくい社風(残業が多い、女性のキャリアアップがイメージしにくい)などが考えられます。

③教育・機会損失がある

男性と女性が、同じ総合職として採用されても、初任配属先、そこでの職務、配置転換の機会が異なり、管理職のキャリアパス要件を満たしていないケースがあります。
また、同じ配属先になったとしても、男性の方が難易度の高い仕事をし、女性の方が定型的な仕事や支援的な仕事が多い傾向があります。これは、知識や経験が身につかないだけでなく、仕事の面白さを味わう機会に乏しくモチベーションの低下を引き起こす原因にもなっています。

将来的な育成に向けた教育訓練(「やがて担当する仕事にも役立つ」教育訓練)の受講率を見ても、女性は男性に比べて低くなっています。
これは、「女性はどうせ辞める」といった「統計的差別」により、上司が育成に消極的であるということが1点。「女性」と一括りに見てしまう危険があります。
「目の前のAさんは・・・」という判断ならまだしも、「女性だから、どうせ辞めるだろう」という固定概念で育成をしてくと人材損失になる危険があります。
「女性に重責は負担だろう」という固定概念や「女性にとって、よかれ」という配慮で、管理職が無意識のうちに差をつけてしまうことが要因の一つです。

また育児休業の長期取得や、短時間勤務制度利用も、業務経験が積みにくい一因となっています。

④女性が管理職になることを希望していない

女性は、男性に比べ昇進希望が弱いことがデータでも出ています。実際に、「女性管理職を増やそうにも、女性が受けてくれない」という声もよく聞かれます。なぜ、昇進を希望しないのでしょうか。

昇進を希望しない理由の一つとして、「自信が無い・不安が強い」ことがあげられます。
2015年4月に三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「女性管理職の育成・登用に関する調査」によると、女性(非管理職)は、管理職に求められる要件レベルを男性より高く想定している一方、男性よりも自己評価が低いことが分かっています。

つまり、「自分の能力は低いのに、私が管理職になんてとてもなれない」と考えやすい傾向にあるということです。
また、今の管理職像として、長時間労働のイメージが強く、育児・家事等の家庭責任を女性が多く担っている現状では「仕事と家庭の両立が困難」になることも管理職になることを希望しない大きな原因です。

3.女性が管理職になることの意義・意味

 

1.女性側の視点から(メリット)

①影響力が高まる

発言の機会が増える、意思決定が出来るなど、仕事での影響力が上がります。
また、仕事が自分でコントロールしやすくなったり、自分のやりやすいように物事を進められる、部下に仕事を任せることができるので、時間や仕事量が管理しやすくなります。

②成長できる

「上層部から情報が下りてきやすくなり、俯瞰的に物事を見られるようになった。」「より影響の大きな仕事ができ、仕事が楽しくなり、充実感を得られる」という声もあり、責任は重くなりますが、仕事の成長や充実感を感じる人が多いようです。

③部下を育て、チームで成果を出す達成感が得られる

部下の成長する姿を一緒に喜べることや、チームワークを築きながら成果をあげることができることで、担当者ではない仕事の達成感を得ることができます。

④自分の能力、適性を活かせる

人にもよりますが、コミュニケーション能力や周囲を巻き込む力は女性の方が得意とされています。「良好な人間関係を構築しチームワークを保つ」「部下が相談しやすい雰囲気を作る」など自分の適性を活かし、能力を発揮することができます。

1.女性側の視点から(デメリット)

ここでは、「デメリット」と表現しましたが、これまでの長時間労働や、体育会系のリーダーシップなどこれまでの管理職像にとらわれず、自分に合った働き方、リーダーシップスタイルを作っていくことが、求められています。

①残業代が無くなる

職務内容により異なりますが、管理職になると残業代が無くなることがあります。短期でみると、一時的に収入が下がるかもしれません。長期的にみると、経済的メリットがあります。

②精神的な負担が増える

管理職になると、自分の仕事だけではなく、部署全体が自分の責任範囲となります。部下の対応や上司から業績等へのプレッシャーが強くなるなど、精神的な負担は大きくなるかもしれません。

③時間的な負担が増える

最近は、プレイングマネージャーとしての役割と、管理職としての役割と両方を期待されるようになり、バランスを取っていくことが求められています。

3.企業側の視点から(メリット)

①意思決定層が多様化する

企業や組織において、意思決定するメンバーが多様性に富んでいるほど、男性ばかりの時には出てこなかった発言や議論が起こり、良い決定が出せることが分かっています。
家庭における購買の意思決定は、女性が握っていることが多く、意思決定層に女性がいることは、よりマーケットの実態に合わせた意思決定ができる可能性が高まります。

②やりがいに満ちた仕事によるモチベーションの向上

性別に関わらず、働きやすい環境で、やりがいに満ちた仕事が出来、公平公正に評価、登用されることは、従業員のモチベーション向上につながります。

③社会的評価の向上

昨今の就活生は、企業のデータを研究しています。女性の平均継続勤務年数、管理職率等の数値や、取組みの公表することにより、人材活用に前向きであるという企業イメージの向上につながります。
また、ダイバーシティ100選などに選ばれたことにより、社会的認知度が向上し、従業員数約30名の会社に2000人の応募が来た事例もあり、優秀な人材を獲得することにもつながります。

④業績向上が期待できる

厚生労働省委託事業の一環で実施された平成22年 みずほ情報総研調査の結果では、管理職の女性比率が過去5年間に増加した企業ほど5年前と比較して経常利益が増加する傾向がみられており、女性活躍推進への取り組みと企業業績には相関関係があるとしています。

このほかにも、女性役員が1人以上いる企業は、ガバナンス強化等により破綻確率を20%低減させられるとする研究成果をイギリス・リーズ大学が発表するなど、女性の活躍が企業の利益やリスク管理能力等に影響を及ぼすとする研究成果が、海外を中心にさまざまなところで発表されています。

(資料)「『ポジティブ・アクション(女性活躍推進)』とセクシュアルハラスメント防止に関するアンケート調査」(みずほ情報総研株式会社、2010年6月)
(https://www.mizuho-ir.co.jp/publication/contribution/2012/jinjiromuqa06_02.html)

4.女性管理職登用にむけての課題点

1.企業、組織として取り組むこと

「女性管理職」は、性別に関わらず自社に合った優秀な人材を採用し、活用し、公正公平に評価され、登用されている組織の人材活用のリトマス紙のようなものです。
女性活躍推進の目的は、性別に関わらず、人材を活かし、企業の業績を上げ、継続して発展させることです。

以下に施策の例をあげますが、目的に照らし合わせ、今まで当たり前だった仕組みや慣習を、問題意識を持って見直すことで、取り組むべき施策が見えてくるのではないでしょうか。
特に、労働生産性向上の観点からも、長時間労働の是正は必須の項目です。
候補者の把握と計画的な育成を行う
 メンター制度/スポンサー制度を導入する
 出産・育児による休業などがハンディとならないよう な評価方法の導入や役職条件の見直しをする
 管理職に対する女性部下育成に関する意識啓発
 役職者昇進につながる教育訓練の実施
 ロールモデル(お手本) となる女性役職者の育成や周知
 役職者への登用試験についての女性への受験奨励
 長時間労働の是正
 男性の育児休業取得の推進、男性の家事育児の参画推進
 労働慣習の見直し(例:時間外の会議など)

2.管理職が取り組む事

女性が、「仕事のやりがいを感じる」「仕事を続けたい」「キャリアアップへ意欲が持てる」「昇進する希望が持てる」などと思えるかどうかは、管理職の仕事の与え方、接し方で大きく変わってきます。

特に女性は、組織への貢献や、働くことへの誇り、能力発揮を感じられるかどうかが、昇進希望に強く影響を与えることが分かっており、仕事のやりがいを若いうちから持たせることが重要です。

女性も男性も将来のことはわかりません。上司が部下に対して「この部下はこの程度だろう」と思ったら、組織やチームの力も「この程度」ではないでしょうか。
目の前の部下に対し、4K(決めつけない、期待する、機会を与える、鍛える)を実践し、個々の力を高めていくことしか、組織の力を高める方法はありません。相手の可能性を信じ、チャレンジングな仕事を任せたら、本人を信じ、乗り越えていけるよう支援していきたいものです。

(引用:厚生労働省 第145回労働政策審議会雇用均等分科会資料)(http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000053847.html)資料4

特に育休・産休明けの社員へ、過剰な配慮をすることにより成長の機会が奪われてしまうことがあります。
これを「マミートラック」といいますが、この時期の過ごし方は後々まで重要になりますので、上司、また本人も気を付けていただきたいと思います。

 「マミートラック」については、
>>マミートラックとは 女性がキャリアアップするためににより詳しく掲載しております。

3.女性が取り組む事

一つは、困難な仕事にチャレンジする勇気を持つことです。そして、たとえ、失敗したとしても、何か出来たことはあるはずです。
女性は、成功すると「ほかの人の協力があったから」、失敗すると「私がいたらなかった」と思う傾向にあります。内省は必要ですが、自分を責めてばかりいるといつまでたっても自信は持てません。

管理職の打診、困難と思われる仕事の打診があった時点で、「出来る」と思われてのことなのです。
管理職はポストの数も限られており、全員が管理職になるわけではありません。しかし、ひとりひとりが、常に成長し続ける姿勢がなければ、企業は成長しません。成長しないどころか、存続まで危うくなるでしょう。そうなれば、給料さえ無いのです。

もう一つは、自分の思い込みや縛りを知ることです。両立支援制度等を使い、自分だけが家事・育児で仕事を調整することは、結果的に女性のキャリア形成を遅らせ、パートナーは家庭のために仕事の調整をする必要がなくなり、家庭参画の機会を奪ってしまいます。

「家事・育児は女性がやるべきもの」「母親はこうするべき」といったような思い込みや縛りが無いかを見つめ、家庭の理解と協力が得られるように主体的に働きかけたり、話し合う機会を持ったりすることが必要ではないでしょうか。
「資生堂ショック」と言われましたが、短時間勤務の美容部員に遅番や土日のシフト勤務を求めた働き方改革は、まさにこの問題提議だったように感じます。

 「女性管理職登用にむけての課題点」については、
>>女性管理職の課題と方策 ~管理職・女性は何をするべき? により詳しく掲載しております。

5.まとめ

以上、今回は「女性管理職」というテーマでお伝えしました。
まだまだ、少ない女性管理職。女性だけなぜ優遇するのか、数値ありきは意味が無いという意見や議論もあります。確かに、これまでの組織の仕組みや、人の意識を変えていくことは容易ではないかもしれません。

しかし、「取り組む未来」と「取り組まない未来」を想像してみてください。
様々なタイプのキャリアや価値観を持つ管理職、リーダーが誕生し、様々な視点から、活発に意見を出しあい、尊重し、活かし合う組織、やると決めたら本気で取り組むことのできる組織の方が、困難や問題を乗り越え、明るい未来に向かって成長を続けられる企業になるのではないでしょうか。

素敵な女性管理職、女性リーダーがどんどん育っていくことを願っています。

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女性管理職育成は、男性管理職に対してもまた、女性自身に対しても厳しい目線を持っていただかなくてはいけません。
また固定概念を除き自覚をもってもらうためには、第三者の専門家の存在が重要になってきます。自社だけではスピードがかなり遅くなってしまう分野です。

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